読書

ブルース・チャトウィン / 黒々丘の上で

アリス・マンロー『愛の深まり』の翻訳者が栩木伸明さんの奥様・玲子さんだと書いておきながら、そういえばその伸明さん訳の本が図書館にあったのを思い出した。どうして一緒に借りてこなかったのか…… おつむが不調な今日この頃である(いつものこと?)。 【…

莫言傑作中短編集 疫病神

べつに「ノーベル文学賞シリーズ」をやっているわけではないが、久しぶりに莫言先生。 【 莫言 / 莫言傑作中短編集 疫病神 / 勉誠出版(310P)・2014年7月(150114-0117) 】 ・内容 ノーベル文学賞作家が描く、中国の農村を舞台とした奇想あふれる物語たち …

アリス・マンロー / 愛の深まり

【 アリス・マンロー / 愛の深まり / 渓流社(430P)・2014年11月(150109-0113) 】The Progress of Love by Alice Munro 1986 訳:栩木玲子 ・内容 短篇の名手が、ふとした出来事による心の揺らぎを静かにあぶりだす作品集。ノーベル文学賞受賞作家が、鋭…

多和田葉子 / 献灯使

【 多和田葉子 / 献灯使 / 講談社(274P)・2014年10月(150105-0108) 】 ・内容 大災厄に見舞われた後、外来語も自動車もインターネットも無くなった鎖国状態の日本で、死を奪われた世代の老人・義郎には、体が弱く美しい曾孫・無名をめぐる心配事が尽きな…

柴崎友香 / 春の庭

【 柴崎友香 / 春の庭 / 文藝春秋(141P)・2014年7月(150103) 】 ・内容 離婚したばかりの元美容師・太郎は、世田谷にある取り壊し寸前の古いアパートに引っ越してきた。あるとき、同じアパートに住む女が、塀を乗り越え、隣の家の敷地に侵入しようとして…

大江健三郎 / 晩年様式集

この年末年始、大江健三郎の半自伝小説『晩年様式集』と『懐かしい年への手紙』(1987年)を続けて読んだ。特に大長篇で難儀した後者の方は、感想を書きかけたのだが全然まとまらないので止めた。はじめの予定では、2015年の最初ということで‘大江健三郎特集…

舩橋 淳 / フタバから遠く離れて

ちょうど昨夜(12/26)、NHKスペシャル「38万人の甲状腺検査」が放送された。本書に収録されている津田敏秀氏の指摘(福島の甲状腺検査結果が過小評価されていると警告)を再読しつつ視聴。この期に及んで安全神話によりかかった予断を持った医師が検診し…

大江健三郎 / ヒロシマ・ノート 沖縄ノート

“ 1958年は「ヒロシマ」においてあらゆる文学者が写真家によってはるかに追いこされた年度になるだろう。いかなる文学作品も1958年に、この写真集よりもなお現代的であることはできなかった。(中略) わたしはこの少女の手術の一連の写真に、戦後の日本でも…

大江健三郎 自選短篇

【 大江健三郎 自選短篇 / 岩波文庫(848P)・2014年8月(141208−1219) 】 ・内容 「奇妙な仕事」「飼育」「セヴンティーン」「「雨の木(レイン・ツリー)」を聴く女たち」など、デビュー作から中期の連作を経て後期まで、全23篇を収録。作家自選のベスト版…

葉室麟、伊東潤 / 決戦!関ヶ原

【 葉室麟、伊東潤 / 決戦!関ヶ原 / 講談社(308P)・2014年11月(141210−1213) 】 ・内容 慶長五年九月十五日(一六〇〇年十月二十一日)。天下分け目の大戦、関ヶ原の戦いが勃発。 ―なぜ、勝てたのか― 東軍…伊東潤(徳川家康)/天野純希(織田有楽斎)/吉川…

アゴタ・クリストフ / 悪童日記

『悪童日記』三部作を読んだ。映画鑑賞に合わせて読むつもりでいたのだが、浜松のミニシアターに来るのは来年なので先に読んでしまった。 【 アゴタ・クリストフ / 悪童日記 / ハヤカワepi文庫(301P)・2001年(141202−1207) 】LE GRAND CAHIER by Agota K…

斎藤健一郎 / 5アンペア生活をやってみた

【 斎藤健一郎 / 5アンペア生活をやってみた / 岩波ジュニア新書(217P)・2014年9月(141129−1201) 】 ・内容 電気に頼らない暮らしをしたい。東日本大震災をきっかけに節電生活を決意した記者が始めたのは「普通の生活はできなくなる」という5アンペア…

ポール・アダム / ヴァイオリン職人の探求と推理

【 ポール・アダム / ヴァイオリン職人の探求と推理 / 創元推理文庫(414P)・2014年5月(141123−1125) 】 【 ポール・アダム / ヴァイオリン職人と天才演奏家の秘密 / 創元推理文庫(408P)・2014年11月(141125−1128) 】 THE RAINALDI QUARTET by PAUL A…

星野智幸 / 未来は記憶の繭のなかでつくられる

【 星野智幸 / 未来は記憶の繭のなかでつくられる / 岩波書店(238P)・2014年11月(141118−1121) 】 ・内容 「過ちは過去を忘れることから始まる。私は過去を、未来の中に埋め込んでおきたい。この本は、未来に対する仕込みとしての過去なのだ」 読むべき…

ジャン・ジュネ / 泥棒日記

朝吹三吉が翻訳したものを読んでみようと思い、名訳といわれる『泥棒日記』を持っていたのを思い出した。押し入れ奥にあったのは、学生時代に古本屋で買った(たぶん100円か150円)昭和三十五年の第八刷、定価は350円。持っていたということは、読んだことが…

石村博子 / 孤高の名家 朝吹家を生きる

【 朝吹登水子 / サルトル、ボーヴォワールとの28日間 / 同朋舎出版(269P)・1995年(141103−1105) 】 サルトルがボーヴォワールを伴って来日したのは1966(昭和41)年の秋。四週間の滞在中、東京から関西、九州まで巡った彼らの旅をつきっきりでエスコー…

上橋菜穂子 / 鹿の王

【 上橋菜穂子 / 鹿の王 / 角川書店(上568P、下560P)・2014年9月(141029−1102) 】 ・内容 強大な帝国・東乎瑠にのまれていく故郷を守るため、絶望的な戦いを繰り広げた戦士団“独角”。その頭であったヴァンは奴隷に落とされ、岩塩鉱に囚われていた。ある…

加藤直樹 / 九月、東京の路上で

【 加藤直樹 / 九月、東京の路上で 1923年関東大震災ジェノサイドの残響 / ころから(216P)・2014年3月(141021−1024) 】 ・内容 関東大震災の直後に響き渡る叫び声、ふたたびの五輪を前に繰り返されるヘイトスピーチ。1923年9月、ジェノサイドの街・東京…

深水黎一郎 / テンペスタ 天然がぶり寄り娘と正義の七日間

意図していたわけではないが、これも幻冬舎の本だった。 本書を買ったときに『貴様いつまで女子でいるつもりだ問題』というタイトルの本が目に留まって、それも幻冬舎だった。例によってちょっとだけ迷った。「天然がぶり寄り娘」か「いつまで女子問題」か。…

高杉晋吾 / 袴田事件・冤罪の構造

今年三月、1966(昭和41)年の事件発生以来実に四十八年ぶりに(!)袴田巌さんが解放された。新聞報道には目を通していたが、袴田さんは地元・浜松の人であり、何か一冊読んでおかねばと思っていた。 高杉晋吾さんのこの本、タイトルが変わっていたので気づ…

菅 淳一 / 横浜グラフィティ

山崎洋子『天使はブルースを歌う』(毎日新聞社、1999年)は、戦後横浜に多数生まれた混血児にスポットを当てたノンフィクション。 1945年八月末、厚木に降り立ったマッカーサーがまっすぐ向かったのは横浜だった。ホテル・ニューグランドが彼の宿舎となり、…

大木晴子(編) / 1969 新宿西口地下広場

【 大木晴子・鈴木一誌 編 / 1969 新宿西口地下広場 / 新宿書房(255P)・2014年6月(141007−1010) 】 ・内容 1969年2月、数人の若者が新宿西口地下広場でギターを鳴らして反戦歌を歌いだした。彼らは3月の毎週土曜日からここに集まり歌をうたい、自らを「…

小河原正己 / ヒロシマはどう記録されたか

【 小河原正己 / ヒロシマはどう記録されたか / 朝日文庫(上304P、下376P)・2014年7月(141001−1006) 】 ・内容 人類史上初の原爆により壊滅した広島中央放送局と中国新聞は、被爆翌日にラジオ、3日後に新聞が再開。以来2つの報道機関にとって、原爆報道…

宮下奈都 / ふたつのしるし

宮下奈都さんの新刊は幻冬舎の「GINGER L(ジンジャーエール)」という季刊文芸誌に連載されていた作品。なるべく粗筋に触れないように感想を書く。 【 宮下奈都 / ふたつのしるし / 幻冬舎(216P)・2014年9月(140928−0930) 】 ・内容 「勉強ができて何が…

尾崎真理子 / ひみつの王国 ― 評伝 石井桃子

【 尾崎真理子 / ひみつの王国 ― 評伝 石井桃子 / 新潮社(575P)・2014年6月(140922−0927) 】 ・内容 この人がいなかったら、日本の「子どもの本」はどうなっていただろう―。『ノンちゃん雲に乗る』『クマのプーさん』など、作家として翻訳者として編集者…

M・R・コワル / ミス・エルズワースと不機嫌な隣人

【 メアリ・ロビネット・コワル / ミス・エルズワースと不機嫌な隣人 / ハヤカワ文庫FT(370P)・2014年4月(140918−0920) 】SHADES OF MILK AND HONNEY by Mary Robinette Kowal 2010 訳:原島文世 ・内容 19世紀初頭、女性のたしなみとして日常的に幻を創…

星野智幸 / 夜は終わらない

これまでで一番長い(?)星野智幸さんの本。500ページ、これは手強そうと一週間ぐらいかけて読むつもりでいたのに、予想外のリーダビリティの高さに驚き、星野智幸ってこんなに面白かったっけ?と嬉しい悲鳴を上げつつ、三日と少しで読了。またまた寝不足の数…

吉田司 / 下下戦記

今年の夏、ある一篇の詩を探して古本屋めぐりをした。 終戦の日前後の新聞コラムにその詩の一部が紹介されていて、全文を読みたいと思ったのだ。作者もタイトルも書かれてあったからわかっている。ただ、何という詩集に収められているのかがわからない。とり…

千早茜 / 男ともだち

(記事にはしてないが)今年三冊めの千早茜さん。『魚神』後ごぶさただったが、『からまる』(角川文庫)が良かったので『あとかた』(新潮社)も読んで、現在◎のお気に入りになっている。 【 千早茜 / 男ともだち / 文藝春秋(237P)・2014年5月(140907−09…

奥泉光 / 東京自叙伝

【 奥泉光 / 東京自叙伝 / 集英社(432P)・2014年5月(140830−0905) 】 ・内容 維新から太平洋戦争、サリン事件からフクシマ第1原発爆発まで、無責任都市トーキョーに暗躍した謎の男の一代記! 超絶話芸で一気読み必至の待望の長編小説。世の中、なるように…