エスパルス26節 / ユングベリ効果


一週間前の夜、後ろ足で砂をかけられるものならかけたい気持ちであとにしたエコパ。
台風接近の影響で大荒れの天候が予想されたのに(県東部は大雨警報が出ていた)、時折雨がぱらつく程度で、後半は強い日射しがピッチに濃い影を落とした。
小笠山ではまだミンミンゼミが鳴いていた。九月中はナイター開催にしてもらいたい。


抗議するユングベリに、多分「NO!」と叫んでるI主審。


     


プレミアとちがって日本のジャッジはやたらにプレーを止める。50-50のプレーはたいがい外国人に厳しい。特にこの人は(今日の黄紙四枚は全部外国籍選手に対して)。ユングベリはこれからこういう文化の違いにも慣れていかなければならない。



【 9月17日 / Jリーグ第26節:清水 1−0 浦和 / ‘ファミリーとユングベリ効果’ 】



チームはファミリーなのだと言ったのはゴトビが最初ではない。かつてエメルソン・レオンもよく言っていたし、オジーペリマンも、ことあるごとに口にしていた。(日本人監督はあまりこういうことは言わないものらしいが)
概念としてはわかるけどエスパルスの現状と照らし合わせてみると、‘ファミリー’というほど統率されてはいないし団結しているようには見えない。シーズン終盤の今頃になって寄せ集め感が強まっているじゃないかと皮肉を言いたい試合もあった。(先週のこと)


が、それはエスパルスを単独に見た場合で、今日の相手と比べれば、はるかに‘ファミリー感’は強いのだった。合流したばかりの外国籍選手が二人、トップデビューした若者も一人いるにもかかわらず、である。
よく知らない他所様のチーム事情についてくどくど書こうとは思わないが、反面教師として、少しだけ書いておく。


     


今日の試合、特に後半、柏木がひとり奮闘していたのは浦和側だけでなく清水サポだって認めるところだろう。サッカー誌の寸評には「6」とか「6.5」とか高評価点が付けられるだろう。だけど、彼が頑張って一人でなんとかしようとしてくれればくれるほど、清水は助かったのである。ピッチを右から左へ横切って、それからゴールに向かって、彼が長い距離をドリブルするほど、清水が最も警戒していた男、マルシオ・リシャルデスはどフリーになっていた。柏木のはるか後方に、ぽつんと残されて。
柏木君のしゃかりきなドリブルを見ていて、あらためて、個人技とチームを勝利に導く才能は必ずしもイコールではないことを思う。終盤には彼と同タイプの梅崎まで投入されて、M.リシャルデスが完全に蚊帳の外だったのはサッカーファンとしてはつくづく残念だった。エスパルスサポとしては、ありがたかったけど(笑)


新潟から永田とともに移籍してきたM.リシャルデスは、今季ここまで、なんと2ゴールしかあげていない。不調だったか、故障していたかは知らない。でも、今日見る限りでは、機能してない。活かせてない。(清水から行ったあの男も活かされていないようだが…) J有数のフリーキッカーでもあるのに、どうして明らかに彼より精度も確率も劣る者が蹴っているのか?
チームリーダー不在、選手間のパワーバランスは崩れてぐしゃぐしゃ。本来チームを仕切るべき実力者が手持ちぶさたでろくに働いていない。浦和の監督は口が裂けても‘ファミリー’なんて言葉は使えないだろう。



今日の清水が特別に良かったわけではない。あいかわらずCBの二人が開いてボールを回していて、インターセプトされたのが何度あったか。それでどれだけ余計に体力を消耗しているか。(ピッチ状態の悪さは先週のゲームで知っていたはず) 浦和アタッカー陣のクオリティの低さに助けられたものの、狡猾な上位チームだったら(たとえば播戸がいるとこ)絶対にやられていただろう。
そういう意味では10位と14位という互いにパッとしない順位がそのまま反映されたゲームだったかと思う。


     


前半はヴィジターサイドに座って観ていたのだが、浦和サポのブーイングもなんだか納得できた。岩下やボスナーがプレーメイクしているから最終ラインに余計な負担がかかっている。
それを解消しようとしているのは、先日も書いたとおり、ヨンアピン。この三連戦をフル稼働して、一試合ごとにチャレンジの回数が増えていたのは自信になるだろう。今日は惜しいシュートも放った。個人的なこの一週間のMIPは彼である。
攻撃でも守備でもバイタルがすかすかなときがあった清水だが、ここ何戦かは彼がそこを埋めている。彼がバイタルエリアのシュートポジションに入れるということは、中盤の圧力で勝っているときである。その時間帯に確実に得点できるようになれば必ずエスパルスの成績は上向くはずだ。


     


決勝ゴールは大前だったが、お膳立てしたのは辻尾だった。自信を失って、取り戻して。今季チームの浮沈は辻尾のプレーぶりに比例しているような気もする。
先週のサッカーマガジンに五輪予選を突破したなでしこの左サイド・鮫島さんのインタビューが載っていた。「自分がスピードのある相手との一対一に対処できるようになれば宮間さんや川澄さんがもっと攻撃に専念できるはず」とさらなる進化を目指しているのには、ほとほと感心させられた。
辻尾が自信を持ってプレーすれば、元紀は中でシュートを狙える。バイタルが空いてヨンアピンも入ってこれる。そういうことなのである。


     
     
     


では、今日の辻尾がいつにましてアグレッシブに行けたのはなぜか。自分はここに‘ユングベリ効果’があると思う。
初のスタメン出場でどこまで保つのか心配されたユングベリは75分プレーした。今日は中での決定的な仕事はできなかったが、サイドでのチャンスメイクに多く絡んだ。(前半右、後半左サイドにいたのは、涼しい日陰サイドだったからと思うが…笑)
大前−辻尾、高木−太田と縦の(若い)二人だけの関係でサイドを打開しようとすることが多い清水。だが、不用意なボールロストも多く、ワイドに間延びしたライン裏を一気に突かれてしばしばピンチを招いていた。そこをユングベリが老獪にサポートして整えてくれることで、サイドの勢力図は一変した。攻守のめりはりははっきりし、守備の負担は軽減される。ユングベリが「GO!」と言ったら迷わず行けば良いのだから、辻尾だってきっと楽なはずだ。得点に直結するプレーばかりではなく、間接的ながら守備面でも‘ユングベリ効果’は現れていると見る。
合流してわずか二週間の彼にも同じチームでプレーする仲間への‘ファミリー’意識はうかがえたのである。


     


浦和との試合なのに小野も高原もいないのは寂しいはずだったのに、いつしかそんなことは忘れていた。今日の浦和のようになっていたかもしれない今季のエスパルス。でも、そうはならなかった。させなかった。そのことが、ちょっぴり誇らしく嬉しい勝利だった。献花台の眞田さんに笑顔で手を振って、エコパを後にした。
年末にもう一回、そのときにはベストメンバーで、今季最強のエスパルスでここに戻ってこよう!