2013-01-01から1年間の記事一覧

宮下奈都 / はじめからその話をすればよかった

【 宮下奈都 / はじめからその話をすればよかった / 実業之日本社 (320P) ・ 2013年10月 (131023-1027) 】 ・内容 単独の著書として10冊目にあたり、『終わらない歌』以来1年ぶりとなる本書は、著者初のエッセイ集。小説を書く理由、自著の創作秘話、三人…

石牟礼道子 / あやとりの記

今月はじめ、水銀による健康被害や環境汚染の防止を目的に熊本県水俣市で開かれた「水俣条約外交会議」。世界から約140の国と地域の代表が集った開会式に寄せたビデオメッセージで安倍首相は 「水銀による被害と、その克服を経た我々だからこそ、世界から水…

岩城けい / さようなら、オレンジ

【 岩城けい / さようなら、オレンジ / 筑摩書房 (176P) ・ 2013年 8月 (131011-1014) 】 ・内容 オーストラリアの田舎町に流れてきたアフリカ難民サリマは、夫に逃げられ、精肉作業場で働きつつ二人の息子を育てている。母語の読み書きすらままならない彼…

レイ・ブラッドベリ / 黒いカーニバル

【 レイ・ブラッドベリ / 黒いカーニバル [新装版] / ハヤカワ文庫SF (407P) ・ 2013年 9月 (131006-1010) 】 訳:伊藤典夫 ・内容 ブラッドベリの幻の作品集として名高い処女短篇集『黒いカーニバル』から精選した作品にウィアード・テールズなどのパルプ…

酉島伝法 / 皆勤の徒

今年最もてこずった一冊。つくづく自分にはハードSF脳がないのを思い知った。 【 酉島伝法 / 皆勤の徒 / 創元日本SF叢書 (344P) ・ 2013年 8月 (130926-1008) 】 ・内容 百メートルの巨大な鉄柱が支える小さな甲板の上に、“会社”は建っていた。語り手は…

ジョージ・オーウェル、開高 健 / 動物農場

偶然の成り行きだが、これで今年『すばらしき新世界』と『ユートピアだより』と『動物農場』と、ある流れの作品を読んだことになる。 【 ジョージ・オーウェル、開高 健 / 動物農場・付「G・オーウェルをめぐって」 / ちくま文庫 (276P) ・ 2013年 9月 (130…

ウィリアム・モリス / ユートピアだより

【 ウィリアム・モリス / ユートピアだより / 岩波文庫 (382P) ・ 2013年 8月 (130921-0925) 】 NEWS FROM NOWHERE by William Morris 1891 訳:川端康雄 ・内容 目覚めると、そこは22世紀のロンドン― 緑したたり、水は澄み、革命ののち人々が選びとった「…

畑中章宏 / ごん狐はなぜ撃ち殺されたのか

新美南吉「ごんぎつね」が小学四年用国語教科書の定番であるということに触発されて…… ちょうどこんな本が出たので読んでみた、第三弾。 【 畑中章宏 / ごん狐はなぜ撃ち殺されたのか 新美南吉の小さな世界 / 晶文社 (224P) ・ 2013年 8月 (130914-0917) …

川島幸希 / 国語教科書の闇

新美南吉「ごんぎつね」が小学四年用国語教科書の定番であるということに触発されて…… ちょうどこんな本が出たので読んでみた、第二弾。 【 川島幸希 / 国語教科書の闇 / 新潮新書 (188P) ・ 2013年 8月 (130911-0913) 】 ・内容 国語の教科書が、変だ。「…

佐野 幹 / 「山月記」はなぜ国民教材となったのか

新美南吉「ごんぎつね」が小学四年用国語教科書の定番であるということに触発されて…… ちょうどこんな本が出ていたので読んでみた。 【 佐野 幹 / 「山月記」はなぜ国民教材となったのか / 大修館書店 (311P) ・ 2013年 7月(130906-0910) 】 ・内容 「李徴…

エスパルス2013 : 天皇杯二回戦 / お手本

【 8月28日 / Jリーグ第22節 : 清水 4-3 鹿島 / ‘アンチ・フットボール’ 】 キックオフから一度もボールに触れることなく十五秒で失点。六分で2失点を喫す。勝ったとはいえ、ひどい試合。 どういう練習をしているのか。というか、どういう練習をすれば、こ…

馬場マコト / 従軍歌謡慰問団

8/14放送のNHKスペシャル「従軍作家たちの戦争」は日中・太平洋戦争に報道部員として従軍し〈兵隊・三部作〉を書いた火野葦平を中心に、戦地に派遣された文学者たち、いわゆる‘ペン部隊’の戦争協力を描いたドキュメンタリーだった。 ペン部隊同様に、国家総…

中脇初枝 / わたしをみつけて

【 中脇初枝 / わたしをみつけて / ポプラ社 (257P) ・ 2013年 7月(130827-0829) 】 ・内容 施設で育ち、今は准看護師として働く弥生は、問題がある医師にも異議は唱えない。なぜならやっと得た居場所を失いたくないから― 『きみはいい子』で光をあてた家…

コラム・マッキャン / 世界を回せ

今はなきワールドトレードセンター(WTC)屋上で命綱なしでの綱渡りを決行したフィリップ・プティ(Philippe Petit)のドキュメンタリー映画『マン・オン・ワイヤー』を見たのは2009年8月。 プティの伝説的パフォーマンスと9・11をつなぐ作品がいつか書かれるの…

開高健 名言辞典

最近おぼえた格言 ― ・ ゆっくり行く者は遠くまで行ける (出典不明) ・ 老人が亡くなることは、図書館が焼け落ちるのに等しい (アフリカの諺、らしい) ・ 永遠に生きる者のごとくに学び、明日死ぬ者のごとく生きる (ガンジー) ・ この天と地のあいだに…

コニー・ウィリス / 航路 (再読)

三年ぶりの再読。今回は流し読みして三日ぐらいで読んでしまおうと思っていたのに…… 【 コニー・ウィリス / 航路 / ハヤカワ文庫SF (上656P、下672P) ・ 2013年 8月(130815-0819) 】 PASSAGE by Connie Willis 2001 訳:大森望 ・内容 マーシー総合病院で、…

オルダス・ハクスリー / すばらしい新世界

【 オルダス・ハクスリー / すばらしい新世界 / 光文社古典新訳文庫 (433P) ・ 2013年 6月(130810-0814) 】 BRAVE NEW WORLD by Aldous Huxley 1932 訳:黒原敏行 ・内容 西暦2540年。人間の工場生産と条件付け教育、フリーセックスの奨励、快楽薬の配給に…

美智子皇后 / 橋をかける

少し前の中日新聞朝刊コラムに紹介されていた、こんなお話― 名古屋市の児童書専門店・メルヘンハウスに届いた、あるお母さんからの手紙。彼女は毎日、幼い息子に絵本の読み聞かせをしていた。自分も楽しいし、息子が本を好きになってくれたのは何より嬉しか…

新美南吉童話集

【 新美南吉童話集 / 岩波文庫(334P) ・ 1996年(130730-0805) 】 ・内容 新美南吉(1913−43)はわずか29歳、二冊の童話を出版しただけでこの世を去ったが、底抜けに明るく、ユーモアと正義感にあふれた彼の童話は、今日多くの人の心をとらえ、賢治、未明、…

松下竜一 / 暗闇に耐える思想

【 松下竜一講演録 暗闇に耐える思想 / 花乱社(158P) ・ 2012年 1月(130804-0807) 】 ・内容 月に一夜でも、〈暗闇の思想〉に沈み込み、今の明るさの文化が虚妄ではないのかどうか、ひえびえとするまで思惟してみようではないか ― 東大入学式講演、「暗闇…

細見 周 / 熊取六人組

【 細見 周 / 熊取六人組 反原発を貫く研究者たち / 岩波書店 (224P) ・ 2013年 3月(130727-0803) 】 ・内容 いわゆる御用学者とは対照的に、長年、「原発の安全性を問う」立場で研究を続ける研究者たちがいる。京都大学原子炉実験所の今中哲二・海老澤徹…

針谷 勉 / 原発一揆

【 針谷 勉 / 原発一揆 警戒区域で闘い続ける“ベコ屋”の記録 / サイゾー (160P) ・ 2012年11月(130724-0727) 】 ・内容 牛たちと運命をともにする! 福島第一原発事故により、牧場の放棄と家畜の殺処分を命じられた農家。だが、それにあらがう男は「一揆」…

伊東 潤 / 巨鯨の海

今回の芥川・直木賞。芥川賞は、いとうせいこう『想像ラジオ』が有力視されていたものの落選。個人的にはせいこう氏と‘仲好し’の選考委員、奥泉光教授のコメントを聞いてみたいところ(…というか、お二人の文芸漫談でこれ以上のネタはあるまい!)。 直木賞…

ピーター・バラカン / ラジオのこちら側で

「When I was Young,I listend to the radio waiting for my favorite song」とカレン・カーペンターは歌い、「Radio what's new? Radio someone still loves you 」とフレディ・マーキュリーは大観衆の手拍子とともに歌った。「内ポケットにいつもトランジス…

コニー・ウィリス / オールクリア2

【 コニー・ウィリス / オールクリア2 / 新☆ハヤカワ・SF・シリーズ (512P) ・ 2013年 6月(130704-0708) 】 ALL CLEAR by Connie Willis 2010 訳:大森望 ・内容 第二次大戦下のイギリスで現地調査をするため、過去へとタイムトラベルしたオックスフォード大…

宮内悠介 / ヨハネスブルグの天使たち

『盤上の夜』宮内悠介さん待望の新刊。出たらすぐ読むつもりだったのに遅くなってしまった。 【 宮内悠介 / ヨハネスブルグの天使たち / ハヤカワSFシリーズ Jコレクション (261P) ・ 2013年 5月(130629-0703)】 ・内容 ヨハネスブルグに住む戦災孤児のス…

対話集 原田正純の遺言

【 対話集 原田正純の遺言 / 朝日新聞西武本社・編 / 岩波書店 (296P) ・ 2013年 5月(130612-0617)】 ・内容 水俣病をはじめ、人の命や尊厳を脅かす産業社会の負の面に医師として半世紀以上対峙し、2012年6月に亡くなった原田正純氏。「被害の記憶や教訓。…

佐高 信 / 原田正純の道

【 佐高 信 / 原田正純の道 水俣病と闘い続けた医師の生涯 / 毎日新聞社 (192P) ・ 2013年 5月(130608-0612)】 ・内容 医師の立場から胎児性水俣病を証明し、常に患者の側に立って水俣病を告発し続けた原田正純。企業の利潤追求、国の経済発展の論理と対峙…

石牟礼道子 / 椿の海の記

【 石牟礼道子 / 椿の海の記 / 河出文庫 (320P) ・ 2013年 4月(130602-0607)】 ・内容 はだしで盲目で、心もおかしくなって、さまよってゆくおもかさま。四歳のみっちんは、その手をしっかりと握り、甘やかな記憶の海を漂う。失われてしまったふるさと水俣…

山口由美 / ユージン・スミス 水俣に捧げた写真家の1100日

【 山口由美 / ユージン・スミス 水俣に捧げた写真家の1100日 / 小学館 (237P) ・ 2013年 4月(130529-0601)】 ・内容 二十世紀を代表する写真家ユージン・スミス(1918-1978)の代表作であり、人生最後のプロジェクトでもあったのが、写真集『MINAMATA』(1975…