クロマニヨンズ ライブ


昨年はライブ中に足が攣って最後尾に撤退するという人生初の失態を演じてしまった。雪辱に燃える今年は二週間前から毎日10kmのロードワークと腹筋・腕立て各50回×5セットのメニューをこなしてこの日のライブに備えたのであった、、、、、というのはウソ。
今日でお別れの退職者を囲む社員の輪から逃げるようにして定時退社、車の中でラモーンズのTシャツ(『二流小説家』でクレアちゃんも着てた)に着替える。\300の栄養ドリンクも注入。おぉっ、こ、これは! 燃えてきた、カッカッしてきた! アクセル・オン、ロックンロール・スイッチもON!
仮面をかなぐり捨てて、行くぜ、電撃のクロマニヨンズ・ライブ!



クロマニヨンズ ツアー2013 イエティ対クロマニヨン / 3月28日 浜松窓枠 】



          


入場して人目もはばからずに屈伸とアキレス腱ストレッチをする。念のため、一応ね、一応。一日のお勤めのあとだし、晩飯も食べてないし、今日は前半セーブして後半勝負で行く作戦。
しかし、ライブスタートとともに脳内配線がショートしてスパーク。わかっていたとはいえ、オープニングの ‘突撃ロック’ で自制心とか大人の余裕とかほどほどにとかはどっかにすっとんで突撃。「永遠です」のリフレインが切なすぎて素敵すぎて嬉しすぎてもう泣きそうになりながらシャウト、シャウト!
‘黄金時代’ 、 ‘人間マッハ’ とフルスロットルのスピードナンバー連発であっという間に汗だく酸欠状態にさせられたのであった。



今、この瞬間の刹那が永遠である。平日の夜にクロマニヨンズ。自分にとって年に一度の特別な時間。刻みつけるビートは誰に聞かせるでもない永遠不滅の宣言だ。
二十年以上、平均気温が上がろうが、景気が上がろうが下がろうが、ガソリンが高くなろうが電気代が上がろうが、誰かが生まれてこようが死んでいこうが、卒業しようが入社しようが、結婚しようが別れようが、台風が来ようが地震が来ようが、そんなことどもに関係なくヒロトマーシーは永遠を運んできた。



ふだんはわりと冷静な自分だが、切れるときもある。切れるとあっけなく脆くなるものだ。
マーシー詞曲の新定番にしてクロマニヨンズ史上最高の珠玉 ‘他には何も’ が始まると、やはり切ないサビのコーラスでこらえきれなくなった。家で車でこの曲を聴くとき、そんなことは感じたことがないのに、ライブで聴くとひたすら「ごめんなさい、ごめんなさい」と謝りたくなるのはどうしてだろう。身につけた余計なものがぼろぼろ剥がれ落ちていく感じ。失くしたと思っていたものが、実はまだちゃんと残っていた感じ。「やらずにいられない」衝動すら封印して生きる虚無と原罪が浄化されてもう一度生まれ変わるような疾走感。爆裂して飛び散るものは不要なものなのだ。怒濤の轟音シャワーを浴びてむき出しになるのは裸の自分、抑えきれない解放の喜びだった。


    追憶よりなお 遠いところで ミュータント吠えて 胸をつらぬいた
      やらずにいられないことがあります やらずにいられないことをやるだけなんだ、ただそれだけ
    他には何も 他には何も、何も、何も、何も……



どんな政治家も学者も文化人もスーパースターも成しえないことをヒロトマーシーはやってきた。自分には人間国宝級の、国民栄誉賞並みの、1000年メダルにあたいする功労者だ。
「いつまでたっても変わらない そんなもの、あるだろうか」― その答が心のずっと奥の静かな泉に眠っているのを、今の自分なら知っている。ビートに呼び覚まされ、メロディにつられて、一粒ずつのしずくとなって零れおちるもの。青春。ロックンロール。記憶の棚に蓄積された永遠だって、年月とともに熟成していく。


          


幸いなことに自分の前にいた人たちがだんだん脱落して視界が開けてくる。スタミナはあるのだ。昔からこいつらの曲で飛び跳ねてきたんだから。いつのまにか目の前すぐにコビー。眉にピアス、肩にタトゥー、黒モヒカンの根っからのパンクスがバンドのアティテュードをビンビン体現している。
アンコール、フロントの三人はいつものようにシャツを脱いで上半身裸でプレーした。無駄なく削ぎ落とされた彼らの肉体はロックを奏でることでつくられた。無酸素運動プロテインも科学的トレーニングも無しに、ただシャウトすることで、ギターを弾くことで、ベースを鳴らすことで、あの身体はあるのだ。この岩は削られても丸くならない。ますます細く尖っていくばかりだ。ビートが彫ったロックンロールの刻印。そして、本当はロッカーに限らず人間誰もがそれぞれにそういうシャープな肉体を持つべきなのだ。


    腹が減ったな、オートバイ
      おまえガソリン、おれカレー



史上最強を更新し続けるクロマニヨンズはこの四人以外に考えられない。コビー、カツジ、ありがとう! これからもヒロトマーシーをよろしく!
二月に始まった今回のツアーはまだまだこれから七月まで続く。
巨大な力で無為に変わってしまうもの、変えられてしまうものがある。でも、変わらないものも、奪われないものも絶対にある。このバンドがいつもそばにあることの貴重さを思う。クロマニヨンズサウンドが東北の空にも轟いてほしい。



びしょ濡れの半袖シャツのまま帰宅。その晩はなんともなかったが………
翌日ふだんどおりに出社して仕事してたら、昼頃から膝が痛みだした。そのうち背骨も痛くなってきた。仕事のしすぎだな、きっと。
それよりも、涙菅の経年劣化が著しい。クロマニヨンズ・ライブであんなに感傷的になった自分にビックリしているのである。