エスパルス YNC二回戦 / 天使か悪魔か


清水駅シャトルバス乗り場。乗ってくる人たちが手に手に花を持っている。勤め帰りらしいワイシャツ姿もあれば、年配のご夫婦もいる。小さな坊やが自分の背と同じくらいの花束を抱えている。今日の相手、新潟サポの人まで……
発車を待つあいだ、早くも鼻をぐずんぐずんさせている自分であった。


     
     


入場口で「清水エスパルスおりがみボランティア」の方々に心のこもった素敵な作品をいただいた。どうもありがとう! 今日のプログラムにはさんで大事にとっておきます。


     


 ※スタジアムボランティア‘パルちゃんクラブ’の活動をされている 「パルクラ参加日記」 さんのブログ



【9月14日 / ナビスコカップ2回戦:清水 2-1 新潟 /‘天使か悪魔か’】



新潟のスタメンを見て嫌な予感がした。9、10、11が並んでる。者永哲、ミシェウ、ブルーノ・ロペス。リーグ前節・鹿島戦では温存していたらしい。特に左サイド(清水の右)、者と酒井高徳(五輪代表)のコンビには昨年からやられっぱなしだ。苦しいメンバー構成、あいかわらず不安定な守備ラインを考えると、これは大敗もありうるぞ…と思っていたら、開始6分に失点。まるで5対5のミニゲームみたいな壁パス一本で裏を取られてあっさりゴールを許す。
ただ、新潟もコンディションは万全でないのか、次第に受けに回って縦への圧力がいつもほどではないのは幸いだった。


矢野貴章はドイツ移籍。昨季、清水の天敵だったマルシオ・リシャルデスと永田充は浦和に、右サイドの有望株・西大伍は鹿島に引き抜かれた。主力の流出という点では新潟も清水に劣らぬ厳しいシーズンになっているのだった。
そんな新潟のCBを務めていたのが菊池直哉。彼もまた清商OBであり(元々は清水ジュニアユース)、本来なら今頃磐田を背負う中心選手になっていたはずである。サッカーセンスの塊だった彼が再起をかけて闘っていた。清商の大先輩・眞田さんの追悼試合、かつて主役の一人としてダービーを戦った日本平。どんな想いでこの日のピッチに立っていたのだろうか。


菊池を前半で交代に追いやったのは、フレッシュな鍋田亜人夢。相手DFに囲まれても鋭いターンで抜け出るなど、若々しくもしぶといプレーを見せていた。プレーメーカー不在でどうしてもサイドにボールを運ぶ選択が多いチームにあって、なかなか欲しいところでボールをもらえなかったが、フルタイムプレーしていれば決定機は訪れそうな雰囲気はあった。それだけに、後半途中交代は悔しそうだった。
難しいチーム事情のホームゲームでの初スタメンとしては及第点を与えられる出来だった。


     


もう一人、目についたのはヨンアピン。守備のユーティリティプレーヤーという触れこみだが、オランダでの本職は左サイドで実はボランチ経験はあまりないとのこと。だが、試合を重ねるごとに味方への指示は増え、自分でボールを動かしながら時に前線に出ていく回数も増えつつある。今日は前半、左からのクロスにゴール前に飛びこむ場面が二回あった。
「戦術理解力には自信がある」―この言葉に嘘はなさそう。今の清水に足りないものを自分のプレーで埋めていこうとする姿勢に好感を持っている。アレックの決勝ゴールのあと、飛び上がって喜んでいる彼を見て、確実にエスパルスの一員になりつつあると感じたのだった。


     



で、やっぱりいちばん目についたのはこの人である。


     


まだ二試合目、ダービーに続いて後半二十分頃に登場。
彼が出てきて何が変わるのかというと、敵ゾーンを避けたサイド一辺倒の単調なボール回しの中で真ん中の受け手になってくれる点にある。慎重なのか臆病なのか、どうしても中に起点がつくれない今の清水にとって、外から中へ持ちこんだり、逆に外へ持ち出したり、この二試合で彼のプレーがテンポを変えているのは事実である。
超大物が近くにいて「よこせ!」と怒鳴っていたら遠慮して「どうぞ」と渡してしまう雰囲気もあるとは思うが、それはそれで正解なのだ。


     

(指を痛めたユングベリを心配そうに見舞う新潟の小沢と内田。もしかして彼らもファンだったりして?)


ゆったりとマイペースでアップしている彼を見ていると、つい思ってしまう。なんであいつはダッシュしないんだ? どうしてあやつだけシュート練習に加わらないで横でリフティングやってんだ?と。
でもそのうち気が向いたのかシュート練習に加われば、4本蹴って4本ともゴールにきっちり沈めている。それもけっこういやらしい所へ。
後半が始まってビブスの下にユニフォームを着けた他の控え組がいつでも行けるように精力的に汗を流しているところへ、黒いトレシャツのままあとからのそのそやってきて、いちばん先にベンチに呼ばれる。どうだかなぁ〜と思って見ていると、ちゃんと試合に入ってる。ボールを奪われれば猛烈に相手を追いかけて、さりげない仕返しの一蹴りも忘れない。


まだ彼の「やる気」には疑問符がつく。もっと長い時間、タフなところを見せてもらわなければ、全幅の信頼を寄せるまではいかない。
でも、この二試合で垣間見せた爆発的な加速とか、縦への強力な推進力には圧倒的な迫力があった。プレー機会とその成功率を考えれば、清水のスタメンが90分かけてやれないでいることを、彼は易々と達成している。やる気なさそうなふりをしていて、いきなり本気出すみたいな小賢しいやり方に見えないでもないのだが(笑)
短時間の出場ながら必ずシュートシーンを創出しているし、またパサーとしても一級なのは証明した。特に今日二、三度あった右サイドからのクロスの質には唸らされた。GKとCBの間に送ったカーブのかかった低いボール。長身FW不在なのに山なりのセンタリングを放りこんでいたそれまでの清水の攻撃とは鋭さにおいても厳しさにおいても、格段にレベルの高いボールだった。
残念ながらまだ味方も反応できなかったりしているが、小野とは絶対に合うだろう。ユングベリと一緒にプレーすることで必然的に小野から高原へのパス供給も増えるだろう。
個人的には早く高原とユングベリが並んでいるところを見たい。本当に二人が似てるかどうか確かめたいだけなのだが(笑)


     


ユングベリの活躍が示唆するもの。それは、とにかく走れ走れ、コンパクトな陣形で前からプレス、奪ってから早く、少ないタッチで、というJリーグ全体のプレー傾向へのカウンターでもある。局所戦に終始するつぶし合いの目まぐるしい展開の中ではミスも多く、若さと勢いはあるが、かえって質は落ちているのではないかと思う瞬間が(エスパルスにも相手チームにしても)年々増えていると感じる。(必ずしも質の高くない若手選手がJリーグで評価されている点を、いつかゴトビも指摘していたと思う)
フィジカルコンディションはせいぜい70%ぐらいのユングベリがそれなりの存在感を示せるのは、「読む力」が頭抜けているからだろう。清水のウィークポイント。相手守りの弱点。試合の流れの中でシンプルに急所を見抜く戦術眼の高さが、この人にはたしかにある。


ユングベリはエース候補なのかジョーカーなのか。スタメンで出てエスパルスを勝利まで引っぱれるのか。未知数な部分も多いけれど、この二試合での五十分余りの印象は良いものに変わりつつある。
彼が本気になるように導くのはわれわれサポーターの仕事でもある。ありったけの声援を送ってアウスタを盛り上げて、かつての大スターの自負心をくすぐりたい。彼のプライドを刺激して、ヨンセンが、ボスナーが示してくれたように、エスパルスへの愛着を彼にも植えつけたい。日本のクラブならどこでも良かった、なんて絶対言わせない。エスパルスを選んで良かったと思わせたい。


     


追悼の悲しみで始まった試合はユングベリの登場で明るい方へ好転して終わった。
ナビスコカップに話を戻すと、9/28ビッグスワンでの第二戦は激闘必死。先制されればそこで切れる可能性もある。互いにリーグでの上位進出は望み薄の両チーム。今日の1点はかえって新潟のモチベーションを上げるだろう。簡単にアウェーゴールを許したツケは必ず払わされる。先勝したとはいえ、逆境である。無失点に抑えきる計算は立てにくい以上、攻撃陣の奮起にしか次に進む道はない。