エスパルス2012 : YNC準決勝 / 歌声よ響け!


さあ、正念場の一週間がやってきた。ダービー、天皇杯ナビスコ準決勝と続く三連戦。三連勝だけに意味があると自分は思っている。全部勝てるかどうかに今年だけではなく来季以降のエスパルスも懸かっている。
中心選手がチームを去り、残された若手が主力としてどこまでやれるのか。試練であり挑戦でもあるが、この三試合はテストではない。シーズン終盤の、結果だけが求められる厳しい本番、チームとして次のステージへ上がるために避けては通れない戦いだ。
例年以上に山あり谷ありのシーズンになっているが、個人的にはこの三戦がワンセットの、今季最大の山場と見ている。 (10月5日・記)



【 10月6日 / Jリーグ第28節 : 清水 1-0 磐田 / ‘スピリットの勝利’ 】


     


昨年25節、エコパでのダービーは眞田さんの訃報にユングベリのお披露目が重なってガタガタの状態での試合だった。今年もそうなるかもしれない。そんな懸念を払拭する勝利となった。
ダブルボランチになって役割が曖昧になっていた最近の村松だが、今日の相手には格好の標的がいた。藤枝東高の先輩にしてジュビロ最大のキーマン、山田大記。高感度のレーダーが常に山田を捕捉し続けて素早い寄せと‘潰し’で磐田のエースを封じこんだ。
前半20分、その村松がハーフライン手前でボールを奪取、そのままゴール前中央に走りこむと河井からのリターンを蹴りこんだ。清水は最後まで集中を保ってその1点を守り抜いた。
磐田サポの声は全然聞こえなかった。90分、それ以上に渡ってエスパルスの選手たちを鼓舞し続けたわれわれオレンジサポーターの勝利でもあった。




【 10月10日 / 天皇杯3回戦 : 清水 1-0 東京V / ‘理由なき勝利’ 】


     


お世辞にもハイレベルとは言い難い現在のエスパルス。ストライカーは不在、攻撃の形を持たないチームに大量点は望むべくもなく、もはや内容を云々するチームではなくなっている。ファンタジックなプレーもスペクタクルなゴールシーンも期待してはならない。相手のミスでも偶然でも何でも点をむしり取って、もぎ取って、しのぎきるだけだ。
この試合は誰が見てもヴェルディの方が芯の通った戦いをしていたというだろう。それでも勝ったのはエスパルスだった。
速さもない、テクニックもない、高さもない(活かせない)。これといったストロングポイントを持たず、きちっとした集団戦術もない。素人目にもクオリティは低く映るチームがどういうわけだか最後には勝っている。皮肉で言うのではなく、「試合に負けて勝負に勝つ」 そんな‘エスパルス・クオリティ’の不思議はこの日も確かに発揮されたのだ。
そんな中、MF八反田康平の存在感は試合ごとに増している。前半は低い位置でボールを回収しては散らし、後半はトップに近いポジションを取って敵DFラインの押し上げを抑えた。毎試合、CFを追い越して裏に抜け出す惜しいチャンスを必ずつくってもいる。ピッチ上でチームの足りない部分を補おうとする彼の賢さが、次第にチーム内で信頼を集め求心力を高めているように見える。‘若旦那風情’のこの出遅れた大卒ルーキーがだんだん大きな核になっていくのかもしれない。
いつか「勝つべくして勝つ」日が来るのなら、その事前段階でのこういう小さな勝利は貴重な経験として蓄積されるはずである。




【 10月13日 / YNC準決勝 : 清水 3-0 FC東京 / ‘アウスタ劇場再び’ 】


     


大前のハットトリックで清水が勝って、決勝進出を決めた。スコアは開いたが、実質的には1-0のゲームだった。清水先制後の心理戦に経験値でずっと上回るはずの東京が負けた。
後半18分、高木のパスを受けて大前が2点目を決めた。‘ダイバー’丸山を振り回してのゴール。いつかの河井の借りを元紀が「正当な手段で」リベンジしてみせた。ある意味で、前科者にプレッシャーをかけ続けたオレンジサポーターが後押ししたゴールでもあった。
2点リード。でも1点返されれば二戦合計ではタイになる状況。本当の戦いはここからのはずだったが、米本と石川を退げてまでFWを次々に投入したFトーの策は苦肉。ヨンアピンをサイドに引っぱり出せなくなり、自らゴールを狭くした。言ってみれば、清水の術中にはまったのだ。最高の切り札としての小林大悟の登場はこのゲーム全体の流れを象徴しながら決定づけるものだった。(やっぱり大悟は巧いし速さを演出できる。短い時間だったもののシビれた!)


     
     
     
     
     
     

文字どおり総力戦でつかみ取ったナビスコカップ・ファイナリストの座。今は清水の選手ではなくなってしまった者たち、それに白崎、姜、鍋田らと今日ピッチに立てなかった河井、キジェの、グループリーグからの頑張りがこの結果につながった。途切れそうになるのをこらえて、こらえて、なんとかつなぎとめてきたのだ。
今季、めまぐるしくヴァージョンを変えてここまできたが、相手に対策を練られるとパタリと勢いは止まった。八反田が舵取りに座った今回はどうか? おそらく今後のリーグ戦でも対戦相手は「八反田潰し」を仕掛けてくる。なかなかの強心臓の持ち主でありそうな彼のことだから、涼しい顔で乗り越えてくれそうな気もする。今日のようにバックアップに大悟が控えるなら、「中から」のバリエーションはもっと増やせるはずだ。11/3の決勝までに、さらなるヴァージョンアップを。


     


なんだかあのダービーが一週間前のことだったとは思えない。この三戦、よくぞ戦い抜いた。
もう一度、国立で歌おうではないか。 真の二十周年を、国立で祝おうではないか!