仲井戸麗市 ライブ

仲井戸“CHABO”麗市 Fighting Guitar MAN TOUR 2013 / 2月23日 浜松窓枠 】



2010年、早川岳晴との還暦ツアー「GO!!60」から二年ぶりに仲井戸麗市‘チャボ’が浜松にやって来た。
新旧織り交ぜて、インストあり意外なカバーあり、またポエトリー・リーディング的な演奏やRCの曲もあり、サービス精神全開の多彩なプログラムで楽しませてくれた。
今回は純粋にソロ・ステージということで、始めから「全部おれ一人でやってんだぜ」と言いながら熱演また熱演。三曲目あたりでもう「あー疲れた」と汗をぬぐう彼に、客席から「早すぎる!」の声が飛ぶ。「早い? 曲のテンポが? あ、疲れるのが」とお茶目にとぼけて爆笑を誘う。
仲井戸麗市、62歳。会社員なら退職している年齢だが、ミュージシャンに定年なんてないのだ。



「ギタリスト・チャボ」だから、だいたいこの人のライブは歌1に対してギター3か4ぐらいの割合なのだが、今回はそのあいだに「喋り2」が挿まれていて、近況報告的な内容が多かったのだけれど、そのトークに出てくる古くからの、それに近年新たに知り合った若い音楽仲間たちとの交流が現在のチャボを支えているようで、その語りからも彼のミュージシャンシップは感じられるのだった。
多くのミュージシャンとの共演が話題に上ったのだが、中でも震災以来、福島県相馬市で支援活動を続ける山口洋Heatwave)への最大限のリスペクトを表明していたのが特に印象的だった。
それにしても、チャボと中村達也がバンドを組むとは……! そして、泉谷抜きのルーザーとは!


          


すでにツアーの半分を消化してきてトークのこなれ具合もステージ上の立ち居振る舞いもすっかり板についていて、安心して見ていられた。べつに自分が心配する必要などないのだが。
充実ぶり歌声にも表れていた。マイクから50センチも離れていても会場全体によく透った。二年前とは別人のような、自信に満ちた堂々たる歌いっぷり。ジョージ・ベンソンばりに弾きまくりながらギターフレーズをユニゾンスキャットしてみせたり、ヴォーカルワークにも手抜かりはなかったのである。



チャボが書く曲に陽気さや派手さはない。日本のロック・アイコンの一人として誰もが認める存在なのに、この人の「ロックンロール、オーイェー!」には開放感や攻撃性はこれっぱかしもない。ソロライブの定番‘My R&R’はこの夜も静まりかえった客席に淡々と響いたのだった。
昔、RCサクセションの頃にFMラジオで彼が話していたのを今でも覚えている(たぶん「サウンドストリート」だ)。「ガーンとやればいいんだって、いつも思うよ。でも、いつもできないんだ」 ― 新宿育ちの元来シャイでナイーブな少年が自分を叱咤し鼓舞する掛け声として、景気づけの秘密のスイッチとして放つひと言。ギターを手に取れば別人に生まれ変われる。「俺は電気、触らないで!」なんて歌も歌える。そういうロックンロールのスタイルだってある。自分は昔からそういうのが好きで、今でも大好きなのだ。
ロックンロールDNAの日本版には、チャボの暗いソウルは絶対に幾何かはすりこまれているはずだ。


          



元気になったチャボの歌とギターとお喋りをたっぷり堪能した三時間だった。だけど、本音を一つ書いておく。
昔の曲はもういい。今のチャボの歌だけを聴きたかった。リリカルな、メランコリックな、彼独特のポエジーにもっと浸らせてほしかった。
  
   “ 僕らは自由の服に着替えて 冷たい川の水に足を浸す
      やがて漆黒の闇が訪れたら 僕ら 盗まれた星たちを奪い返しに行く
     ああ、どうにもならぬことなど、何ひとつなかったのです
      どうしようもないことなんて、何ひとつなかったのです ”


‘ガルシアの風’のラストに切々とつまびかれるシンプルなアルペジオが最も雄弁に彼の詩情を物語った。
ギタリストとしての彼ではなく、シンガーソングライターとしてのチャボ。「日本の偉大なソウルマン」を伝えていく使命を彼は担い、その重責を引き受けた。誰もがそれを当たり前のことのように受けとめているけれど、でも……。本当はチャボにしか書けない詞をチャボが歌うのを、天国の清志郎クンだって望んでいるんじゃないか。


          


仲井戸麗市は日本のロック界最後のろうそくの一本である。2009年にそれは風前のともし火となったかに見えたが、2013年の現在、絶えなかった小さな炎をふたたび街々に灯す旅の途上にいる。細い身体にチャーミングな笑顔を乗せたそのろうそくの輝きは、もう消えることはないだろう。
かつて雲の上の存在だったバンドのギタリストが、六十歳を越えた今、一人でステージに立ってギターを弾き語る。それをほんの数メートルの近さに見つめる不思議。奇跡のような、魔法のような時間をありがとう、チャボ! おたがい長生きはするもんだね。
浜松でのライブを終えた彼は、今夜これから明日のライブ地、岐阜まで移動するのだという。そしてあさってには松阪、さらに名古屋へとツアーは続く。今頃チャボを乗せたワゴンは真夜中の東名をひた走っているのだろうか。
今夜の彼は、まちがいなく日本でいちばん汗をかいた62歳だったはずだ。どうかどうか体調には気をつけて、彼がこのツアーを無事に走りきれますように…… 月夜に祈った。