ミーシャ/ホロコーストと白い狼

6月、7月と土曜出勤が続くので、今日は代休を取った。名古屋まで行って映画を観てきた。

地元にはショッピング・モールに併設されたシネコンが3つもあるのに、ハリウッドものとテレビドラマの映画化作品しかやってないお粗末な状況。マーチン・スコセッシストーンズ映画もとうとうやらなかったし(怒) 
『ミーシャ』はHPで調べたら、全国でも10館でしか上映されないレアな映画なのだ。名古屋もしばらく行ってないしAppleStoreもご無沙汰だし、出かけることにした。目指すは「名演小劇場」。新幹線が動き出してから夕べプリントアウトしておいた劇場までの地図を忘れてきたのに気づいてちょっと焦ったけど、全然土地勘のない場所ではないし、とりあえず栄に出て錦通りを歩いてけば見つかるだろうと、久しぶりのお出かけ気分を楽しんだ。


3月に『ベルリン1933』を読んで以来、今年二人目のユダヤ人少女・ミーシャのお話である。


【ミーシャ ホロコーストと白い狼】

Survivre avec les Loups/2007年/フランス・ベルギー・ドイツ合作

[あらすじ]

1942年、ナチスユダヤ人狩りが猛威を震うヨーロッパ。両親を連行されて取り残された8才のユダヤ人少女・ミーシャは一人で両親が待つと信じる「東」に向かってブリュッセルを旅立つ。ドイツ〜ポーランドウクライナへと苛酷な自然の中を飢えに苦しみながら、彼女はひたすら歩き続けた。


     


思っていたほど悪くはなかったが、それほど良くもなかった、というところか。

ミーシャの家族に起こったことだけが描かれて直に少女の一人旅が始まってしまうので、ユダヤ人が迫害されていた社会背景やナチスの恐ろしさが、それほど伝わってこない。拷問や銃殺シーンがなければリアリティがないなどと言うつもりはないし、火薬や血糊で無用に恐怖心を煽る必要もないとは思うが(過剰な映画は多い)、現実に命の危険に晒されているという切迫感がないのだ。映画の大半を占めているミーシャの旅の場面も、リアリティに乏しい。飢えばかりが強調されていたが、ドイツ、ポーランドの森林地帯の酷寒は素通りだ。旅を続けるモチベーションとしての両親の存在も、あまり強調されない。


これは「母をたずねて三千里」みたいな、子供にも見せられるように作られた作品なのかもしれないと、見ていてちらっと思った。あるいは、ヨーロッパの人たちにとっては1942年に全土を覆っていた緊張は、当たり前の前提条件として認識されているものなのかもしれない。

原作は「少女ミーシャの旅」という本。ユダヤ人ライターの自伝として出版されてヨーロッパでベストセラーを記録したものの、この映画が公開されて創作であったことが判明、さらに著者がユダヤ人ではなかったことも明かされたという、いわくつきの原作。
この騒動のことは知っていたし、自分としてはノンフィクションでないのならファンタジーとして楽しめば良いと思って見たのだった。読むにしろ観るにしろ、その話が実話かどうかなんて気にしなくていいはずだ。


主人公を演じたマチルド・ゴファールの演技は素晴らしかったと思う。日本との、子役に求められるものの‘重み’の違い、ハードルの高さの違いといったものを考えずにいられない。戦争を知らない彼女が自分の役を演じる上で理解し体得したものの重さというか大きさというか。ヨーロッパで俳優として生きていく上で、当然背負わなければならないものを十歳にならない少女が堂々と体現してみせてくれている。



で、以上のことは映画の感想であって、自分の目当ては他にあったのだった。言うまでもないが、「白い狼」である! いやコイツらがいいんだわ♪

HPのプロダクション・ノートによると、調教師はピエール・カデアックという人(要チェック)。毛並みの美しい白い雌狼は「モアラ」というんだそうだ。リーダー格の黒毛とミーシャが「月光」と呼んでいた赤毛の若狼、それに可愛いチビ狼が4頭出てくるのだが、実に上手くミーシャに絡む。

オオカミ族としては途中から「本当に狼を調教できるのか?」という疑問が頭の中で渦を巻いてしまい、ミーシャそっちのけで狼ばっか見ていて、ストーリーのリアリティとか実はどうでも良かったのだ。多分、休憩中にミーシャと狼たちがじゃれ合う場面なんかを長回しで撮りっぱなしにしたものを編集したりしたのだろうが、それにしてもモアラは何度も鼻面突き上げて遠吠えするし、イノシシをぶっ倒して野性丸出しで食うは狼どおしで唸り合う場面もあるはで、ミーシャの直面していた緊迫よりも迫真であって、族長としてはドキドキしっぱなしだったのだよ!
      
     この場面、もちろん一緒に吠えましたとも!(心の中で)


ただし、オオカミはこの映画のようにあんなに簡単に人間に撃たれて捕らえられることはない。足を撃たれれば、撃たれた足を自ら噛みちぎってでも逃げて人間に見つからない場所で死ぬのがオオカミなのだから。

予告編を見たときから思っていたのだが、この白狼モアラはNHKドキュメンタリー『シートン/狼王ロボ』でロボの連れ合いブランカを演じた狼ではないか。まだビデオを確認していないけど、あの毛並みと巨体、狼らしくないつぶら黒い瞳…あんな芸達者なセクシーな狼はそうそういないはずだ。


いやぁいいモノを観た。作品としてはイマイチかもしれんが、オオカミ映画としてはかなりイイぞ!名古屋まで行ったかいがあったってもんだ。

あ、そうか。子役もオオカミも日本では到底実現不可能なレベルにある。CGで誤魔化したハリウッド風作品なら日本でだっていくらでも出来るだろうけど、それは必ずしも文化度が高いことではない。日本じゃせいぜいソフトバンクの白い犬程度なのだ。良くも悪くもそんな陳腐さとは無縁なヨーロッパ映画だった。

毎度のことではあるけれど、ヨーロッパの大戦の本を読んだり映画を観たりして、リアリティ云々て話してる自分て何だろ? 当時の広島、長崎や沖縄のこと、どれだけ知ってるんだろう。自分の故郷も大空襲があって、幼かった両親は疎開経験もあるのだ…