クロマニヨンズ・ライブ “MONDO ROCCIA ”

ザ・クロマニヨンズ TOUR MONDO ROCCIA ‘09 -‘10 / 2月5日 静岡市民文化会館


最新アルバム『MONDO ROCCIA』を引っ提げて昨年11月に始まったツアーも、数えてみると静岡で36本目。まだまだツアーは続き、3月の沖縄まで全49公演が予定されている(2/6現在)。
ブルーハーツハイロウズクロマニヨンズと二度のバンド解散後、沈黙することも充電期間もなく、ほとんど間を置かず新バンドをスタートさせてきたのだから、ヒロトマーシーほど働き者のバンドマンはいないだろう。
ほぼ年に一枚はアルバムを発表して全国ツアー(毎回ほぼ五十回!)に出る。これまで彼らが自分の街にやって来れば毎回必ず足を運んできたからほとんど恒例行事のような気もするけど、でも、やっぱり彼らのライブに行くのはいつでも特別な一日だ。


          


定刻をわずかに過ぎて客電が落とされ、ステージにアルバム・ロゴのネオンとジャケットにある‘C’型の人の手のオブジェが降りてくる。いつもながらシンプルだけど、いかがわしさがぷんぷん匂うセット。市民会館のステージがライブハウスのステージに早変わりする。
メンバーが出てきてジャングルビートを刻み始める。‘ジャングルジャミン’‘ジョニークール’‘突然バーン’とアルバムの中でもライブ映えする曲が立て続けに演奏されて、一気に頭の中は真っ白に。泣いてるヒマなんてない。
半径5メートル以内にメンバーは立って、ときどき目配せを交わしている。お世辞にも音響は良いとは言えない会場でビートナンバーでいささかの乱れもないのはバンドが好調な証拠。このリズム隊は本当に良い!



途中、「朝青龍引退?俺は引退なんてできないんだよ、なかなか辞めさせてもらえないんだよ」とヒロト。「ロックンロールに捕まっちゃったもんで」。「静岡……おでん。この頃ケンミンショーとか見ちゃうんだ」とも。
メンバー四人ともMONDO ROCCIAのロゴ入りTシャツを着ていたけど、会場で売られていた新品の色鮮やかなシャツとは違って、どれもいい具合に色あせくたびれていた。ヒロトの黄色いシャツはひときわ色落ちして、生地も擦れてぺらぺらになっているように見えた。それがまたよく似合う。まっさらなシャツより着慣れたシャツ。クロマニヨンズとはそういうバンドだとあらためて思った。
ヒロトはMCで「ロックンロール」という言葉を何度も口にして、客席に向かって「ロックンロールを楽しんでってくれ!」と拳を突き上げたりもした。もちろんヒロトにそんなことを言われれば、こちらも歓声を上げ腕を振って応えるしかないのだけど、これまでの彼はそんなアクションを見せる男だっただろうか?



モンキービジネスだなんてわかりきったこと。ルーティンワークも当たり前。二十年以上もバンドをやってきて今さら歌いたいこともそう無いはずだ。なのにベテランロッカーの手練れとは無縁。誰かさんのように過去の遺産で生き長らえようと思えば楽なのに、そんな年金生活には見向きもせずひたすらラウド、今出せる音を高らかに鳴らさずにいられない。
薄っぺらい胸板を細腕で叩いて自らを鼓舞するように‘エイトビート’を歌うヒロトの勇姿を見つめていると、永遠不変と思えたロックンロールの初期衝動だって年齢とともに変わるし、むしろそれは自然なことに思えてくる。
良いメンバーに囲まれて、今自分たちが奏でているのはロックンロールだと確信を持って語れるのは、今まで以上の純度と強度の高まりを実感できているからじゃないか。経験は熟練や老成を拒否して、そんなふうに昇華して作用させることもできる。ヒロトマーシーでさえ年をとるけれど、彼らはますますストレートになってきたじゃないか。それが嬉しくて仕方なかった。


          
              [ヒロトの所信表明であり、俺たちの凱歌、行進曲でもある、エイトビート!]


クロマニヨンズ四作目となる“MONDO ROCCIA”は全12曲、約三十分のモノラル録音盤。冗長だったりフェードアウトする曲は一つもなく、短いイントロの後すぐに歌が始まる二、三分の曲ばかりが並ぶ。プロモーションでは「スタジオでせーので録った」というのがいつもの彼らのお決まりだが(多分いちいち説明するのが面倒くさいんだろう。聴けばわかるもん)、マージービートとエヴァーグリーンなメロディ、コーラスワークまで凝った、実はよく練り込まれた傑作だと思う。
ヒロトがよく歌うレコードの感動を、このレコード(あえてCDとはいわない)は伝えてもくれる。初めてロックに触れた頃の、瑞々しく新鮮な驚きを思い出させてくれる。
「もう一杯、ちょうだいな」のコールに応えるアンコールまで、あっという間の一時間半のライブだったけど、アルバムの鮮度をそのまま再現してみせたステージだった。
あれだけハイテンションのステージを繰り返すのだから体力だってひどく消耗するだろう。清志郎のこともあって、酷使し続けてきたヒロトの喉は大丈夫なのかと心配にもなる。ロックバンドにこんなことを思ったことはなかったけど「くれぐれも健康に気をつけて。また来てくれよ」と思いながら会場を出た。