エスパルス1、2節/幸運とベテラン

【3月6日 / Jリーグ第1節:広島 1−1 清水 /‘幸運’】


今季エスパルス初戦はアウェー広島戦。すでにACLでガチンコの公式戦を経験しているチームとの差が如実に表れた前半は一方的に押し込まれた。硬かった立ち上がり3分で献上したPKの1失点で済んだのは幸運だった。
新システムの弱点、DFライン前に空いたスペースを衝かれて苦しかったが、後半は小野と兵働が本田の左右をケアしてボール奪取、低い位置からのビルドアップが功を奏して主導権を握った。
フリーで上げるクロスのミスキックが何本もあったのは悔やまれるし、キレのない(あるいは新チームにまだフィットしていない)岡崎も相手にとって脅威ではなかった。パス、シュートがワンテンポ遅い、引いた相手に1対1の仕掛けも少ないなど慎重さが目立ったのは開幕戦ゆえか。


前半の広島は仕上がりの早さを感じさせる出来だった。佐藤寿人の集中力はさすがで、FWとしての存在感、エースの風格はまだまだ岡崎より全然上だ。李忠成がベンチスタートだったのは清水にとって幸いだった。スペースへ放り込むストヤノフへのチェックが甘かったのが前半苦戦の原因だった。


後半は清水が盛り返したが、決定機は少なかった。いつもの迫力を欠く岡崎に代えて大前でも良かったと思う。児玉→太田、市川→辻尾の交代は適切だったが、逆点を目指すのなら、もっと早くても良かったはずだ。
後半ロスタイム、右コーナー付近からのFK。ゴール前は密集。藤本はまさかヨンセンとボスナーの間に隠れた大前を狙って蹴ったわけではあるまい。ピッチ上で最も小さな男がヘディングで決めたラッキーゴール。
好意的に見れば、開幕初戦を昨季四位の広島という堅実なチーム相手にドローで終われたのは良かったのではないか。
これで清水のエンジンに火が点いたか、次節・次々節のホームゲームが楽しみだ。



【3月13日 / Jリーグ第2節:清水 3−0 山形 /‘ベテラン’】


待ちに待ったホーム開幕戦。十時過ぎには清水に着いたのだが、駐車場にはすでに山形ナンバーの車が何台もあった。長い坂を歩いて上る間、声を掛け合わずともエスパルスを応援する一体感に包まれて、自分にとってもエスパルスの試合結果に一喜一憂するシーズンがまた始まるんだなぁと実感する。
風が強い曇り模様で、残念ながら富士山は雲がかかって見えない。スタンドを眺めると、年配の方が多いのがいかにも日本平という感じがする。声のでかさでは劣っても、サポーターの平均年齢はJチーム中ダントツに高いだろう(子供連れも多いからそうではないか)。杖をついてスタジアムへの長い坂を登ってくる老夫婦の姿も見かけた。ただでさえ階段の多い施設を大勢の高齢者が毎試合訪れる。これはアウスタ日本平の美点の一つだ。エスパルスは身障者の方ばかりでなく、年配の方々へのサポートをより充実させていってほしいと思った。


練習のときから小野は気合いが漲って見えた。入団発表以降、ローカルメディアへの露出も多いので、もうすでに清水の一員としてすっかり馴染んでいるように見えるけど、彼にとってはこの試合が日本平での公式デビュー戦。
本田と組んだパス練習をじっくり見ていると、実に多彩にボールを蹴り分け、、随所に見せる変態トラップ、何気ないボールタッチも小技満載で見ていて楽しい。あのオレンジ色のアシックスのブーツ、欲しいな。


     


試合は前半、前節の広島がそうだったように、清水がイケイケになる。小野は守備にも精力的に動いて清水がボールを支配したが、飛ばし過ぎな感も。得点は1点止まりで後半へ。連携不足の山形に助けられたと云えなくもない。

その山形の左サイドは藤枝出身の石川竜也だった。筑波大から鹿島−東京Vを経て07年から山形でプレーしている。たしか小野と同年代、清商の全国出場を阻んだ藤枝東のキャプテンだったはずだ。個人的には常に人材不足の代表左サイドで相馬の後継は彼しかいないと思っていた時期があり、清水に来て欲しかった選手の一人でもある。
1999年のワールドユース準優勝時のメンバーでもあるから、当然、小野や市川とは静岡県の年代別代表でもチームメイトだったはず。
だから今日は清水の右サイド(山形の左サイド)の攻防を楽しみにしていたのだが、いかんせん山形側に迫力がなかった。元気のないヴィジターチームにあって、数回あったセットプレー時の石川の左足のキックだけが、ほとんど唯一、清水を脅かす瞬間だった。あの、真横に回転をかけた速いボール。精度の高さは藤本以上かもしれない。
サッカー選手としてエリートコースを歩んでいた彼ほどの才能がなぜ(当時)J2チームに行ったのか、石川竜也のこれまでの移籍の経緯は詳しく知らない。何が小野や高原らと運命を分けたのか、わからない。
やや散漫になった後半、眼前で我慢のプレーを続ける石川を見ていると、笑顔で故郷のチームに迎えられる者、故郷を離れて遠くのチームで戦い続ける者、プロ選手の宿命の対照を見る思いがして少々感傷的になってしまった。(清水まで来たのだから、実家に寄ったりできたのだろうか?オレンジ一色のスタンドに彼の家族は来ていたのだろうか?) 高校時代、藤色のユニフォームがよく似合った賢く実直そうな少年が、少し猫背で疲れた感じ漂う険しい表情の男になっていた。
‘小野歓迎’ムードに染まった今日の日本平のピッチは、石川自身にとってもかつて主役を演じたことのある思い出深い舞台だったはずだ。数少ないFKのチャンス。渾身の左足から放たれた強烈なボールに藤枝の男の気迫がほとばしった。



やはり先週の広島がそうだったように後半失速したエスパルス。しかし終了間際に岡崎が‘一発屋’的ゴールを決め、ロスタイムにはテルも決めるというおまけ付きの大団円で終わったのだから、良しとするしかない。(テルの苦笑混じりのヒーローインタビューとテルに小野が抱きついたところが今日最大の名場面!)
ハーフタイム〜後半、アップをする控え組に目をやると、見るからに出たくてウズウズしている大前や辻尾らの中にあって、テルだけはのんびり調整しているように見えた。よもや自分がゴールするとは思っていなかっただろうが、ちょうど伊東輝悦が現在の大前の年齢の頃、彼は今日みたいなフィニッシュは決めて当たり前の選手だった(サテライトでのテル−岩品コンビは最高だった!)。「守備専」としてではなく、今季システムの小野・兵働のバックアップとしても貴重な存在であることを鮮やかに知らしめてくれた。
今日も彼の親父さんはスタンドのどこかにいたのだろう。テルも小野も、幸せ者だよ、まったく!


幅広く動いて自分のリズムをつくる岡崎は3トップの布陣で自分のスペースを見つけられないでいる。速攻―岡崎を走らせ競り合わせるボールをもっと入れるべきだ。今日も90分通じて最もボールに関わっていたのはヨンセン。前節に続いて彼はフル出場だったが、彼を早めに休ませる展開に持ち込めるかどうか、彼のバックアッパーの早期の復調と先発メンバーのローテーションも長丁場を戦い抜く鍵になってきそう。

これで次節、ホーム神戸戦は落ち着いて戦えるのではないか。来週は休出になりそうなので、月曜日から同僚に出てもらうよう粘り強く工作しなければ(笑)