エスパルス8節/偶然と必然

【4月24日 / Jリーグ第8節:清水 2−1 大宮 /‘偶然と必然’】


予報ははずれて暗い雲に覆われた日本平。雷まで鳴りだす不穏な雲行きはそのまま試合展開にも重なってしまった。ハーフタイムには通路から階段下までポンチョを買い求める長蛇の列が出来た。


照明が灯された後半の清水の2得点はいずれも幸運だった。


左サイドに流れてボスナーからのボールを引き出した小野は素早く中央に走りこんだ兵働に折り返した。バイタルエリアに進入して右足で受けて浮いたボールは大宮DFマトの背後へ。兵働は飛びこんだ勢いのまますり替わってゴール左にボレーで蹴りこんだ。
浮かせたのか、浮いてしまったのか。兵働のファーストタッチは意図したものだったのか、それとも偶然か。濡れたボールを不得手な右足でトラップしたことが、彼らしいダイナミックなゴールにつながった。


追いつかれてドローの雰囲気が濃くなってきた後半41分に生まれた山本真希の決勝ゴールも雨の恩恵に見えた。
「インフロントで蹴るつもりがインステップ気味に当たった」とは本人談。濡れたボールがほんのわずかに感覚を狂わせた。「GKとDFの間を狙った」高速クロスはGKのニアを破って逆サイドネットに突き刺さった。
(角度的には)マルコ・ファン・バステンのスーパーボレーのような、ゴールライン際のほとんど角度のないところからのゴールだった。

後半早々に大前に替わって出場した山本真は25分過ぎ、正面から得意なミドルシュートを放ったが、GKに阻まれた。その後もポジションにとらわれず攻守に精力的にボールに絡み、今季ベストのパフォーマンスを見せていた。
待ってましたとばかりに狙いすましたシュートが決まらず、センタリングが入ってしまうのだから不思議なものだ。


悪コンディションがもたらした幸運ともいえるが、最大の幸運はそれが清水にだけ起こって大宮側には起こらなかったということ。大宮の偶然を封じた分だけ、清水に勝機は近かった。偶然と必然の微妙な差配を勝利に結びつけたのはホームの利だろうか。


     


大宮は清水をよく分析して試合に臨んでいた。
高い位置に進出した本田拓也がチェックを受けて奪われると、一気に大宮FW石原♯9がドリブルから平岡と一対一になる場面が二回あった。一回のミスが致命的な失点につながる危険なポジション。雨の試合での危機管理が甘かった反省は残る。では、本田は今日のような悪コンディション時にはもっと慎重なプレーをすべきだろうか。
「本田のところで取ればチャンス」という相手チームの認識を覆えしてしまえば良いではないか。本田からは奪えないと相手に思わせるまでに絶対の自信を持ってキープしろ。あのポジションで勝てば、清水の数的優位は圧倒的なものになる。そのチャレンジこそが彼を成長させるだろうし、彼にはそんな頼もしい選手になっていってもらいたい。
もちろんこれは本田個人の問題ではなく、彼を孤立させない周囲の連携も不可欠である。


雨の中でもボスナーのキックは正確で(彼はこの日ただ一人、前後半通して半袖シャツでプレーした)、小野に通した縦のフィードも右サイド高めに張った辻尾へのミドルパスも見事だった。最近よく本田が見せる低くて速い‘グラスカット・パス’(中村憲剛も得意な逆回転をかけたボール。本田は練習中からよく蹴っている)も精度が高い。小野の後方に控えるこの二人の幅広い配球も清水の組み立てにバラエティを増している。


     


この日の試合も山形、神戸戦同様に難しい試合になった。公平に見ればどちらが勝ってもおかしくない内容で、勝ち点を伸ばせていないとはいえ大宮は手強かった。
主審の家本氏はときおり笑顔を見せて選手に声をかけながらジャッジしていて好印象。前節G大阪戦の岡田氏が終始しかめっ面で笛を吹いていたのとは対照的だった。

無敗をキープして首位に立ったが、清水はけして盤石な戦いをしているわけではない。勝ってはいるものの危なっかしい綱渡りをしているのはエスパルスらしいといえばいえるが(笑)、「強い」と断じるには尚早な気がする。 それでも小野が退いた後に追加点を奪って勝ったことで、チームはまた一つ自信を持ったのではないか。(キャプテンがふつうに決定機を決めてくれていれば「盤石」はより近いものになるのだが…)
警告累積が心配された小野はこの日、もっぱらファールを受ける位置でプレーした。彼のことだから対戦相手を考えて、次に警告をくらっても大丈夫なゲームを決めてプレーしていることだろう。次節に浦和戦が迫ったこの試合、無理をするわけにはいかなかったはずだ。
これまで以上に相手は清水の穴を研究して突いてくるのが予想される。プレッシャーはきつくなっていくだろう。それをどう破っていくのか、見物である。