エスパルス11節/リセット

思いつきで何年ぶりかにヴィジターサイドの席に座っての観戦。アルビレックス・サポもオレンジのジャージを着ているので、その中にまぎれて。
新潟のスタンド前中央には静岡ゆかりの選手の横断幕が並べられていた。


     


おそらく矢野、永田の知人・後援者たちも詰めかけたのだろう、自分の周囲に新潟サポーターは意外に多くて、ちょっとアウェーな気分での観戦となった。


【5月08日 / Jリーグ第11節:清水 0−2 新潟 /‘リセット’】


小野、ボスナー、太田、西部を欠いたエスパルスは前半の2失点を挽回できず初黒星を喫した。
今季これまでの試合でもあったように、この日もハーフタイムで修整して消極的だった前半とは別チームのような後半の戦いぶりを見せた。

選手が替わればプレーも替わる。前半、自分の居場所を見つけられず消えてしまったテルは、後半は拾い役に徹して存在感を取り戻した。
中盤に下がった藤本と兵働がしきりにポジションを入れ替えて変化をつけようとするも、前半は形がつくれなかった。
小野の不在は確かに大きいが、もしかしたらボスナーからのビルドアップがなかったことが今季これまでの試合ともっとも違っていた点かもしれない。CBに入った廣井のパフォーマンスが悪かったわけではない。しかし守備面以外でボスナーが果たしている役割は意外に大きいのではないか。


新潟は左サイドの酒井高徳♯24(唯一の新潟ユース出身)が清水の右・辻尾をよく抑えてカウンターにつなげた。彼は右利きだったが、辻尾との攻防で優位に立つと果敢に攻撃参加した。ニアポストに走りこむ矢野に送ったアウトサイドでのラストパスなどに非凡さも感じた。
新潟は人数をかけて攻めるわけではないが、前線の四人にキープ力があり、特に曹永哲♯9はいかにも韓国人選手らしいフィジカルの強さと走力に加えてテクニックもある好選手だった。


試合前の新潟の練習、矢野貴章♯11を近くで見ることが出来た。他の選手もそうだが、ガッチリしたイメージがある彼も間近に実物を見ると、テレビ映りよりびっくりするぐらい細い。どちらかといえば控えめでおとなしそうな性格は、最後のシュート練習に入っても中央で誰かがクロスを上げてくるのをじっと待っている姿にうかがえた。やっとボールが来たかと思うと他の選手のボールと重なったりして思うようにシュート出来ないでいるのに、サイドに声をかけて自分へのボールを要求することもないのだった。

ワールドカップ代表メンバー発表前の最後の試合。当落線上の候補の一人であることは彼もわかっているのだろうが、このゲームで最後の最大限のアピールをする、そんな気迫や緊張感は練習中の彼から表立っては感じられなかった。
矢野にとって、代表は居心地の良いところではなかったのではないか。彼のこれまでの代表歴を思い返して、ふとそう思った。オシムに抜擢されて以来のここ二、三年、代表に呼ばれても主力FWとして先発起用されたことは数回か。多くは後半残り少ない時間に、得点よりも前線でのハードワークを期待されて送り出されるような、FWとしてはあまり嬉しくない使われ方ばかりだったように思う。
この浜名高校出身の26才に次のワールドカップはないかもしれない。岡田ジャパンの構成を考えれば、積極的にそのサバイバルに加わる気持ちになれないのだとしても、なんとなく理解できる気が(勝手だけれど)した。


一方、メンバー入りがほぼ確実視される清水のエース・岡崎には試合前から脚光が当てられていた。FWのライバルとして矢野はその光景をどんな思いで見ていただろう。
この日、矢野はゴールを奪えなかった。しかし、ポテンシャルの高さを見せつけるシュートを2本打った。懐の深いボール保持で清水DFを焦らし、味方に時間とスペースをつくった。岡崎にも決定機が二回訪れたが、こちらも決めきれなかった。
永田♯6(静岡学園出身)を中心に身体を張り続けて最後まで集中が途切れることのなかった新潟DF陣は、なんとしても相手エースを封じて自分たちのエースを代表に送りこもうとする堅い意志でつながっている壁のようだった。


     


後半、清水は児玉をセンターに、左に高木JPを起用して、前半右に傾いたバランスを修整して反撃に出る。
皮肉なようだが、パートナーの小野を欠いたこの日の兵働のプレーは素晴らしかった。小野がいるとショートパスが増えて彼のプレーは小さくなりがちだが、この日はFWに中距離レンジの好パスを連発。近くでプレーした藤本との連携も良く、二人でなんとかしようとする気持ちも伝わってきた。
兵働のダイナミックな展開力に新潟DFラインは後退を余儀なくされ早々と中盤に守備的選手を投入してきたので、これで流れが一気に清水に行くかと思ったのだが…


     


小野がいなかったから清水が勝てなかったのかどうかはわからない。むしろ、小野がいない時に杉山浩太もいないことが問題かも(笑) 誰かがいないからというよりは、テルと児玉の試合勘、連戦の疲労がもっとも大きそうだった本田拓也(奪われてはいけない場所でボールを失い、そのプレーから与えたCKで失点)、リーダー不在の最終ライン、右SBに入れたために好調さが消えてしまった真希、等々、様々な要因からチームのコンディションとバランスが全体的に悪かったのは確か。そんな清水に対して新潟が上回った部分が多かったのも事実で、下手をすると三点目を献上するところだった。
550本のパスを通したバルサが70本弱しかつなげられなかったインテルに負ける。そんなゲームに比べれば、まったく普通の負けゲームの一つといえるし、去年まで見慣れた光景の再現にも見えた。


監督一年目の黒崎久志に敗れたことは長谷川健太にとってもさぞかし悔しかっただろうが、いずれにせよ、主力の警告累積と無敗のプレッシャーを一緒にリセットする試合になったというだけのこと。シーズン中には必ず何回か転換点があるもので、これをその機会ととらえれば良いだけだ。
肝心なのは半年後にベストコンディションを維持していること。故障離脱していたメンバーが復帰して、これからまた新たなエスパルスを見られると思うと楽しみは増すばかり!


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今日、岡崎とともに矢野がW杯代表メンバーに選出された。
岡田監督がジュビロ・前田でなく矢野を選んだ理由が守備面での貢献だけではありませんように…。ただの紅白戦要員―仮想エトー、ペルシー、ベントナー―ではありませんように。岡崎と矢野の2トップ、絶対に良いぜ!?(実現しそうもないけど)

もう一つ気になるのは、ボスナーのオーストラリア代表入り。アジア予選には呼ばれていなかったが、清水での好パフォーマンスがW杯メンバー入りにつながれば嬉しいのだが。