エスパルス17節/孝行息子と宣戦布告

【8月07日 / Jリーグ第17節:清水 2−1 鹿島 /‘孝行息子と宣戦布告’】


試合前、桜エビのかき揚げをかじりつつ晴れ渡った青空と富士山を眺めていると、仕事のことも、今夜これから始まる首位決戦―‘日本平の合戦’―のことも忘れて和んでしまう。ここにずーっといたいなぁ…と思ってしまう。
東名を上って行って真正面にバーンと雄々しい姿を見せる富士山も、富士川鉄橋を走行中の新幹線の車窓から見る富士山も良いけど、ここも良い。これは清水の、エスパルスサポーターの特権だ。


     


18時半、‘雷神’とともに選手入場。
アウスタのオレンジに、富士山頂もほんのりオレンジづいていく…


     


前半、藤本がPKを決めてエスパルスが先制。後半、どういうわけか集中を欠いた時間帯に右クロスから興梠♯13に抜け出されて同点。しかし後半29分、小野に代わった直後の枝村が鋭く走り込んで勝ち越し点を挙げた。

もしかしたら鹿島にはドローでもOKという意識があったのかもしれない。予想したほどの圧力はなかった。
清水は当然勝つために攻撃的に臨んだ。両サイドが高い位置に張り、数的不利な状況になれば果敢に個の勝負を挑んで打開を図った。
特に好調な鹿島の右サイド、野沢♯8・新井場♯7に対峙した清水の左・太田宏介の健闘が光った。あいかわらずドリブルのコース取りが悪かったり(中に切り込んでシュートの怖さがない分、相手は対応しやすいはず)、連係を削ぐようなプレーで自ら孤立を招く場面もあったけれど、そのちょっと違うリズムに相手が途惑ったところで迷わず勝負を仕掛けたのが効いていた。
失点場面は清水が左からのクロスを許したことよりも、逆サイド、ファーポストの対応が手薄だったためだ(似た場面はこの試合中何回かあって、徹底して急所を突いてくるところは、さすがに鹿島らしかった)。
昨日の試合で太田は一皮むけたのではないかと期待する。ヘディング勝負も強くなり、たくましくなってきた。ややもすると清水のウィークポイントに挙げられる左サイドでの彼の進化は、後半戦の重要な鍵になってくると思う。


     


前節欠場でリフレッシュして戻って来た本田拓也は鹿島相手にも堂々とプレーして貫禄を見せた。相手が研究してくるのを、さらに上回るだけの知性を感じさせた。彼の幾つかのシュートブロックがなければ試合展開は違っていたかもしれない。身体を張るその前の、そこを感じとりそこに行く感度の冴えはますます磨きがかかっている。
それから藤本。10番のプレッシャーや30への遠慮が吹っ切れたかのようなはつらつとした働きぶり!すっかり中堅どころの彼だが、いまだに‘若武者’のイメージが似合う。スタンディングではなく自らボールを動かしながらのプレーは小野と本田へのマークの集中を分散させて鹿島を撹乱した。このまま清水の新しい10番像を築き上げていってほしい。


     


ヒーローインタビューは決勝ゴールの枝村匠馬
二、三年前、ハーフタイムのミーティングで相手選手について聞かれて「マジやべー、ハンパねえっす」と答えて健太監督を嘆かせたという枝村。あいかわらず喋り下手でスタンドの失笑を買っていた(笑)
プロサッカー選手は早く結婚して家庭を持った方が、責任感も強くなるしプレーも安定してくるものだと思う。若手が次々と結婚したことが、実はエスパルスの成長の一側面だとすら自分は思っている。だから枝村も早く嫁さんをもらえばいいのに、と常々思っていたのだが…
だが、今どきの風貌の、このつかみどころのない男に関してはどうなんだろうかと考え直した。彼には‘毒’がある。落ち着いてはきはきとして社交的な笑顔を見せる枝村なんて、枝村ではないのかもしれない。結婚したら彼から毒が抜けてしまわないだろうか?サッカーをやっていなければきっとどこか鬱屈した病んだところのある青年になっていたのではと年長者としては勘ぐってしまうのだが、しかし、一つだけはっきり言えることがある。それは、ボランチとしても非凡な彼はこれまでいつだってエスパルスの‘孝行息子’だったということだ。
興梠、本山が交代選手として出てくるアントラーズの層は厚い。だけど、こういう選手が途中で出てきてジャックナイフが如き切れ味で敵陣に斬りこんで、数分後にはゴールしてそのままサイドスタンドに突っ走って行く。やっぱりエスパルスは面白い。
枝村の嫁選びに関しては、サポーターの承認が必要ということにしまいか?彼はわれわれにとっても大事な‘孝行息子’なのだから。


     


鹿島を押し切っての昨日の勝利は、今季タイトル争いへのあらためての‘宣戦布告’だった。
三点目を奪ってとどめを刺したかった。前節・湘南戦の6−3なんて真の強者のスコアとはいえないかもしれない。それでも、昨日見せたスピリットは王者の資格として不足なく思えた。
新システムで快走した序盤。対策を練られて苦戦が続いたW杯中断前。そして今、藤本と兵働のコンビが小野と本田の負担を減らしてシステムが更新されつつある。プレーヤーが己をブラッシュアップすることでチームがヴァージョンアップしている。シーズンは活性と停滞を繰り返しながら続いていくが、23〜25節の浦和・名古屋・鹿島の「赤組」三連戦まで新陳代謝の健全がキープされるなら、夢へと一歩近づくのではないか。本当の勝負はそれからだ。
一戦一戦プレッシャーは増していくだろう。だけど、今のチームにはそれを自分たちの正統な権利として受け入れる土台が出来ている。昨日の戦いが誇らしかったのは、それだけの覚悟をチーム全員が堂々と表現したからだ。そして、同じ覚悟を胸に、ここ日本平を「聖地」として、「アウスタ劇場」の一員として、エスパルスサポーターも一段ステップアップしたからだ。