エスパルス28節 / ヒント


13時キックオフ。台風14号がまさに駿河湾海上にある最中の強風強雨下の試合になった。(藤枝と草薙で予定されていた選手権準々決勝は延期された)

今日の入場者数は七千人。前売り状況からすると数千人はチケットを持っていながら来場しなかったということになる。まあ、ふつうは台風の日にはわざわざ外出しないものだとも思うし、こうしてサッカーなんか見に来ているのはよほど酔狂な連中なのだろう。

雨が降り続く暗い空模様にもかかわらず、アウスタのピッチは水たまり一つなく、昼間の試合というのに早々と点された照明に緑の絨毯がきれいに映えている。
ここがホーム。予測できない動きをするボールとか水しぶきをあげて10メートルもスライディングしてくる選手とか、欧州のどこかのお祭りで行われる古代フットボールみたいな水と泥にまみれた格闘技めいた光景とは無縁。どんな悪天候でもふつうにサッカーが出来る近代的なスタジアム。その誇るべきホームグランドの利を活かした試合を見に出かけたのに、そうはならなかった。



【 10月30日 / Jリーグ第28節:清水 1−2 東京 /‘ヒント’】


     
     



横なぐりの雨にカメラが濡れるのを気にしながらファインダーをのぞく。エスパルスの攻撃をメインに撮るつもりなのに、シャッターチャンスに石川が、米本が写りこんできて邪魔をする。ゴール前の空中戦でも、必ずオレンジ色の手前に森重が写っていた。

前半終了間際に枝村の放ったシュートはGKに阻まれてこぼれたが…
     

セカンドボールをタッチに逃れたのはエリア外から駆け戻った石川だった。
     


同じ時間帯、ヨンセンのヘッドは左に外れたが、森重が身体を投げ出してコースを消していた。
     


岡崎がいない場合、ヨンセンはほぼセンターでプレーする。彼は足元も上手いのに、あまり意図的とも思えない雑な浮き球ばかりが送られ、処理に手間取ってみすみす相手ボールになるシーンが繰り返された。ヨンセンはストレスがたまっただろうし、相手DFにとってはまさに‘狙いどころ’。さぞかし的が絞りやすくて楽だったことだろう。


今日のゲームを象徴する場面、岩下と平山のゴール前の空中戦。
     


これは前半、清水の攻撃場面(たしか小野が蹴ったコーナー)だが、平山がヘッドで大きくクリアした。
Fトーに先制された場面は岩下がマークを外され平山にヘディングシュートを決められた。あれは岩下だけの責任ではない。なぜファーの平山のところが一枚だったのか。CKが蹴られる前にGK西部はじめ他の選手たちも確認しなかったのだろうか。このカットから、逆に東京はヨンセンを森重+梶山で挟む形で見ていたのがわかる。相手にコーナーを与えた一つ前の右サイドでのプレーもいただけなかったし、悪い流れのまま失うべくして失点した。
二点目は左右に振られて中央の梶山に市川がチェックに行ってしまい、外に開いた平山をドフリーにして大黒へのアシストを通された。サイドが中に絞りすぎてファーががら空きになるのは今季見飽きた場面だった。
内容そのものはけして一方的に劣っていたわけではない。しかし、試合中に致命的なミスが必ず顔を出す。それが何試合も続いているのは疑いなくシステムの欠陥だが、いつまでたっても改善されないのはチーム組織の欠陥である。DFだけの問題ではない。相手エースをフリーにして得意の形で決められるのを何度見せられるのだろう。
サッカーに限らず、どんな会社組織でも、何か危険な兆候が露見したときには、もうすでに一歩遅れているものだ。欠点が初めて明らかになったときから次の対策をとってこなかった‘ツケ’がここに来て一気に噴出しているように見える。


攻撃面でも、もっと戦術が徹底されたチーム(監督)なら、まずはCBを引きずり出しておいてクロスを入れるだろうし、そのボールは長身DFを外したミスマッチを狙うはずだ。初対戦ではないのだから平山のような大きい選手には一人が体をぶつけてその裏に飛び込むというようなことをしなければ制空権は奪えないのは分かりきっているはずだ。そういう駆け引きが今の清水では全然されていないように見える。だから今季総得失点のうち、ゴール数は多いもののセットプレーからの得点は極端に少なく、逆に失点は多い。このデータを細かく分析してみれば、上位チームとの目立った差異として現れてくるはずだ。


ふつうはシーズンが進むにつれ戦術理解が深まって成熟していくのに、今のエスパルスは逆に見える。これは何でだ?
他のチームがそれなりに熟成してよりタイトにシビアにまとまってくるのに、清水はどんどんルーズになっている。終盤に入って上昇機運と下降機運のチームが対戦するのだから、順位の序列もホーム・アウェイも関係ない試合を見せられることになる。



後半、大黒に追加点を許す。
     


ざっと振り返れば、ゴールに向かう迫力の差がスコアに明確に表れた試合ということだろう。どんな形でもシュートに持ちこもうとするFWの職業意識の差と言い換えてもいいかもしれない。清水の三人と東京の二人のFW。どちらがFWらしかっただろうか。最近の試合でも李忠成や柳沢の脅威は孤立したヨンセンのそれをずっと上回っていた。一人でも敵DFに脅威を与え続け、相手のラインを下げさせることができるかどうかというのは得点の伏線としてゲームを分ける重要な要素だが、岡崎抜きの清水にはそれがまったくない。ヨンセンポストプレーヤー。藤本はあい変わらずよく走ってドリブルで仕掛けていたけれど、純然たるFWではない。枝村にいたっては3トップのサイドに配置しても存在感が出せないのはこれまでにはっきりしている。
問題はこの3トップが中盤の組織もサイドの役割もひどく曖昧にしていることだ。曖昧な部分は必ずぎりぎりの重大な場面で表面化してくることを経験ある大人なら誰でも知っている。「このチームは鹿島のような大人のチームではない」というのなら、それは成熟を拒む子供っぽい甘えではなかったか?


岡崎は中央で圧力をかけて相手CBと競ってこそ能力を発揮するし、味方にスペースをつくることができるのを負傷明けの短い出場時間でも、あらためてはっきり示した。質のいい上下動を繰り返して今野と森重の距離を開かせた。
     

そこへ投入された大前が左足で蹴りこんだ。
     

後半投入された三人は積極的なアクションで相手DF網を分断しつつあった。ドリブルの鋭さで永井は自身のコンディションの良さを証明した。せめてもう少し時間があれば…
     


相手リードの試合展開や悪条件下ということも無関係ではないと思うが、後半、トップの顔ぶれを変えてからはボールの動かし方が前半とは明らかに変わった。あらためてFWの個性と仕事を考えさせられた試合だった。自分が仕掛けることで優位な局面をつくり出すというチャレンジを全員がしない限りは、そのうち必ず天秤は向こうに傾いてしまう。今日後半の戦いぶりは次戦以降の大きなヒントになるはずと思うのだが、実現されるかどうか。


ライン際で中村北斗と競り合った市川は先に身体をぶつけられると、あっさり見送ってゴールキックに。残り時間は少ないビハインドの状況。若僧相手にあまりに淡泊なプレーに見えた。
     


なぜ腰痛を抱えた小野を使ったのか?
     


淳吾は最後まで労を惜しまずピッチを駆け回った。走行距離データがあれば彼が断トツでトップだろう。
     


それにしても、一般人は家に閉じこもる天候下でふつうにプレーしてしまうプロの凄さを生で実感できて良かった。
手元のシーズンチケットは残り三枚になった。湘南戦は仕事が入ってしまったので、自分のアウスタ観戦はあと二試合しかない。またみんなで勝ちロコやろうぜ!
老婆心ながら、来季のためにも一つでも上の順位、少しでも多く賞金を獲得できる順位でのフィニッシュを。