クロマニヨンズ・ライブ “ウンボボ月へ行く”


新作『Oi! Um bobo』をひっさげてクロマニヨンズのツアーがまた始まる。今回の初日は、なんと浜松! ライブハウス窓枠にはこれまで知り合いのロカビリーバンドのライブで何度か足を運んだことがあったのだが、今年三月に移転したらしい。以前はいかにもアマチュア向けライブスペースという感じでキャパはせいぜい100人程度の、メジャーなプロバンドが来るハコではなかった。
今週クロマニヨンズ、来週は佐野元春とライブが続くので、先日サイクリングがてら市街まで足を伸ばして場所を確認しておいた。雑居ビルみたいな建物の一階だが、入り口付近にはSADSシャカラビッツの告知ポスターが貼られていて、浜松にもやっとそれなりの収容力があるライブスペースが出来たことを確認。
自分たちが取れたチケットの整理番号は300番台。後ろの方だと思うけど、見れればいいやぐらいの気持ちで参戦。



【ザ・クロマニヨンズ ツアー 2010-2011 ウンボボ月へ行く / 11月21日 浜松窓枠】



二月の「モンドロッチャ・ツアー」静岡以来、今年二回目のクロマニヨンズ・ライブ。良く晴れた晩秋の夕暮れどき、東の空にはまっ白い満月が浮かんでいた。会場近くまで来ると半袖シャツに黒スキニー姿のキッズ(やや年齢は高めだが)がきゃあきゃあいいながら赤信号の横断歩道をブーツ鳴らして渡っている。クロマニヨンズの夜、お決まりの光景だ。
18:00開場。ドア一枚を通過するとすぐそこがフロアだった。壁全面に黒い防音材が貼りめぐらされた会場は、さしずめZEPPの小型版という感じだが、ステージも近いし、学校の講堂みたいで小ホールと呼べそうなZEPPより‘ライブハウス感’はここの方がずっと高いと思った。
ステージに向かって右側の‘マーシー・サイド’は混むだろうと思って自分らは左の‘コビー・サイド’で見ることに決めていた。このバンドはベースがいいんだぜ!と力説する俺。
ステージにはドラムセットの後ろに、二本の木が立てられていて「Oi! Um bobo」の旗が掲げられていた(アルバム裏ジャケのデザイン)。


クロマニヨンズのライブSEはいつも渋めのR&Bとかマージー・ビートが多いのだが、今回は違った。
これ何だっけ? ディスコじゃん。あれじゃん、あれあれ、「ラスプーチンだら!」めちゃ懐かしいら! これやってたのは……、続いて流れてきた曲で思い出した。クロマニヨンズのライブに来てジンギスカン聞くとは思わなかった!
パンクが出てきたのはディスコ全盛の時代だった。たしかピストルズを解散してPILを結成した頃、ジョン・ライドンがインタビューで言っていたのを覚えている。「俺はアバしか聴かない」
もしかしたらヒロトも楽屋で「ウッ、ハッ」とかやりながらリラックスしてるのかもしれない。これはいいよ、パンクスも踊っちゃうよ。次、「めざせモスクワ」かかるかも、とわくわくして期待してたら、早々と例のMC(R&R兄ちゃん)が出てきて口上を述べ、ひとしきり会場を煽ると、バンドを呼んだ。



          


やっぱりこの曲でスタート。‘オートバイと皮ジャンパーとカレー’ 短いイントロでいきなり始まってオイの連呼、「イ・カ・ス」「ハ・ヤ・イ」の絶叫コーラス。二曲目‘伝書鳩’でも「アーァ、アーモンドチョコレート」の大合唱。
今度のアルバムはいつにも増してコーラスパートが多いのだが、もうのっけから歌いっぱなしだ。というか、歌わないでいられようか?
アルバムの楽曲は‘素材’にすぎない。ライブ会場で何百人もがいっせいに歌ってより輝く歌たち。‘あったかい’や‘キャデラック’のようなとぼけた曲も、ここでヒロトに合わせて声を出していると自分がたしかに曲の一部になっているような気がしてくる。“Oi! Um bobo”は部屋で聴いているだけでは半分しか楽しめないアルバムなのだ。


ツアー初日だからちょっとは硬いところがあるかもしれないと思っていたけど、全っ然そんな感じはなかった。緊張も気負いもゼロ。ずっとツアーをやってきて、今日は浜松、というように見えた。いきなり‘ひらきっぱなし’な全開クロマニヨンズがそこにいた。
「もうわかっていると思うけど、アルバムの曲順にやってます」とヒロト。「今、A面が終わったところ。B面に行く前に、ちょっと他のやってもいいかな」
そこから怒濤のシングル・メドレーに突入。嬉しかったのは前作から大好きな‘鉄カブト’が演奏されたこと。


後半B面の六曲はシンプルなA面の曲に比べるとリズムに変化があってヴァラエティに富んだ曲群なんだけど、やっぱりこれも生で一緒に歌うとアルバムのヴァージョンよりずっと良かった。行進曲風なリズムを持つアルバムの最後‘南南西に進路を取れ’などは、腕を振って足踏みしながら歌うべき歌なのだ。
ただリスナーでいるのと、オーディエンスとしてバンドの演奏に参加することの違い。たとえそれが自分たちファンの思い上がりに過ぎないのだとしても、クロマニヨンズにはそれを楽々受けとめるだけの度量がある。そういう信頼を寄せられるバンドは、そうはないはずだ。


‘スピードとナイフ’も‘ギリギリガガンガン’もやってくれた。もちろん‘エイトビート’も。だけど、このライブはアルバムの全曲をみんなで歌う、そういうライブだった。
ツアーの初日、われらがクロマニヨンズをここ浜松から送り出すぞ!なんて自分は意気込んでいたのに、彼らは余裕綽々で、まったくいつものクロマニヨンズだった。その雄々しいステージ姿には頼もしさすら感じたのだが、それは勝&勝治のリズムコンビの充実に依るところも大きいのだと、あらためて思えた。
テレビでもラジオでも、耳にするのはキーボード入力の「つくりもの」の音ばかり。ふだんの生活で芯の通った生のベースと生のドラムを聴くことなんて、まったくなくなってしまった。あんなサウンドじゃ勃ちもしない。まっすぐ立って、低い位置にベースをかまえてビンビン音を鳴らすコビーだって、マーシーに劣らぬ国宝級のたたずまいに見える。
今度のツアーがなんで浜松から始まったのか訊いてみたいところだけど、案外ウナギ食って精力つけてツアーに出るってことなのかもしれない。今夜どこかの店でウナ茶(鰻茶づけ)とか食べたのかな? 絶好調クロマニヨンズが全国ツアーの好スタートを切った。


          


前回に続いて今回のツアーも五十本以上のライブが予定されている(…and moreと日程には書いてある)。
いつも気になるのだが、ヒロトマーシーブルーハーツ以来の公式ライブ数とか、ちゃんと残っているんだろうか? 彼らが来れば必ず足を運ぶのはもはや恒例行事に感じてしまうのだが、いったいこれまでの通算で何本のライブをこなしてきたのだろう。そして、いつまで彼らは続くのだろう。終わることなど、あるのだろうか。
六十歳になったチャボがやってるんだから、彼らだって変わらずやり続けていくだろう。たとえば、千年。できるだけ長生きしてさ。
クロマニヨンズのライブに行くことは、伝説を目撃することでもあり、不滅の記録更新に立ち会うことでもある。そして、その記録は俺たちのものでもある。世界中のどんな公式記録集にも載っていないけど、俺らの胸のうちでずっと育んできた、誇るべき記録。今夜、それが一つ更新されたのだ。
彼らのクロニクルがまとめられる時だって、いつの日かきっと来るのだろう。でも、願わくばその前に、ロックの魔法にかかったままで自分が先に終わっていますように……☆


  永遠なんだぜ、無限じゃない 永遠だぜ
    同じじゃなくても、ひとつなんだ ひとつなんだ (‘南南西に進路を取れ’)


ライブが終わってふと床を見ると、飛び散った汗でフロア中が濡れていた。
出口近くまで来たところで会場に流されている曲が耳に止まって、連れを呼び戻した。ストーンズの‘Child of the Moon’だった。
それを最後まで聴いてからドアを出た。満月は頭上に煌々とあって、足下に落ちた影を弾ませた。



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【番外編】

・ボニーM/怪僧ラスプーチン

     

ラスプーチンジンギスカンの曲だと今の今まで思っていたけど、調べたらボニーMだった。三十年間のかん違いが今夜訂正された。イントロがこんなにファンキーでかっこいいのも初めて知った)


ジンギスカン/めざせモスクワ

     

ジンギスカンの映像を初めて見た。こんな連中だったとは…(絶句)しばし呆然。そして、それからリプレイし続けている。このステップ!ちょっとやってみたりして。クロマニヨンズ見てきた夜なのに、嗚呼!)


ストーンズ/Child of the Moon

     

ストーンズのこの映像も初見。こんな曲をライブ後のSEに使うクロマニヨンズ、さすが!)