エスパルス34節 / 心の代表


     




【 12月04日 / Jリーグ第34節:清水 0-3 G大阪 /‘健太のせいで心の代表2010’】




リーグ最終戦
大局的に見れば、このチームでのラストゲーム。今季のみならず健太体制六年間の最終戦。チームを去る選手はリーグ戦での見納めだ。それに毎年のことではあるけれど、これで毎週の一喜一憂がなくなってしまう寂しさ。来週から来春まで、ぽっかりと空白。今年はいつもの年以上に強く「冬」を意識することになりそうだ。


     


しかし、サポーターがどんな意味づけをしようとも、試合は1/34。
最終節の現実的な意義としては、勝って5位を守ることしかない(金の話はしたくないが、5位以下が確定しているエスパルスは勝てば5位で賞金4千万円を獲得、負ければ6位以下の可能性がある)。
今日より重要な試合はもっと前にあった、はず。


     


笑って終わるために今日の試合があるのではない。退団する選手の花道を飾るための試合なんてない。勝ちロコをやるために選手は戦うわけではない。今日の90分がこの一年、そしてこの六年に積み上げた成果の凝縮である保証なんてないのだ。
だけど清水に着いて、雲ひとつない日本平の澄んだ青空と、いつのまにか冬化粧した富士山を見てしまうと、エスパルスのために舞台が整っているのだと、どうしても思いこまずにいられない。


     


どうせひとたびキックオフの笛が吹かれれば、こちらの感傷などつゆ知らずボールはいやになるほど現実的に転がって、90分などあっという間に過ぎるに決まっている。歓喜と落胆は1/2の賭けだ。

そこまでわかっていながら、どうにも落ち着くことができない。
一年前にはいなかった小野伸二エスパルスに今いるのが当たり前なように、テルや市川がいないエスパルスに慣れることなんてできるのだろうか。いい加減に年をとって、たいがいのことでは動じなくなったというのに、いつもと同じようにスタンドに座っていても、どうやって心を準備すればいいのかがわからない。


     


今日ほど試合開始までの時間が早く過ぎた日はなかった。ピッチに選手が登場して練習を始めても、そのまま時が止まって永遠に始まらなきゃいいのにと願ったことなんて、初めてかもしれない。
今日、同じ時刻に全国各地のスタジアムで悲喜こもごものドラマが同時進行するのだろう。ガンバ大阪だってACLの出場権がかかっているし、退団する選手だっている。
主役はエスパルスだと思って浮かれていると奈落に突き落とされるのは痛いほど知っている。(おかげでずいぶん打たれ強くなったよ?…笑)
テルやイチの姿を追っていると目がぼやけてくるので、顔を上げて富士山をにらみつけ、こみ上げてくるものをぐっとかみ殺して、またピッチに目を戻す。主観と客観を行ったり来たり、現実と夢の残滓の葛藤、拮抗に振り回されて、試合前にもう一つの試合を戦っていた。


     



試合はやっぱり現実的な展開になって、西部は負傷退場、早々とテルの出番さえなくなった。
勝ち点で並ばれた川崎に得失点差で上回られて、順位を一つ下げて今季終了。


     


これも毎年最後に思うことで清水に限らないことなのだが、必ず最終節で順位が入れ替わる。勝ち点1、2の差が大きく最終順位を左右する。勝ちきれなかったり、ドローに持ち込めなかった悔やまれる試合が必ずいくつも思い出される。あの1点、あのときの1プレー…… 不用意な失点と逸機が●千万円の上積みを手にするか否かを分けてしまう。Jリーグの順位は、そういう「惜しい」の少ない順に並ぶのだ。
だから最終戦前になるべく他チームの結果が影響しない位置にいるべきなのだが、結局はリーグの流れに巻きこまれて、だいたいいつも同じ位置にいるということは、健太エスパルスとてちっとも特別なチームではなかったことを物語っている。


     


それでも、たとえ‘高所恐怖症’と笑われようが、往生際が悪いと言われようが、今年のチームは良いメンバーがそろった好チームだった。自分にとってはFW不在の禁じ手でワールドカップ・ベスト16入りしたどこぞのチキンな代表より、はるかに魅力あるチームだった。
なのに6位じゃないか……というのは全部、健太のせいだ。50得点30失点を目標に掲げながら60得点49失点。途中でズレを修正できなかった長谷川健太の不徳のいたすところだ。
終戦のセレモニーのあと、全然王者じゃないのに‘王者の旗’を鼻をつまらせながら歌っていて思った。この2010チームは俺の「心の代表」。ヨンセンも西部もテルも市川も青山もみんなそのメンバーで、もちろん監督は長谷川健太だ。


     
     

たしか今季のガンバはスタートにつまづいて開幕から五戦を勝てなかった。一方、清水は……。なのに終わってみれば大きく逆転しているのである。
今季前半は快進撃しながら後半まさかの失速という話はうんざりで、もう聞きたくないし話題にもしたくない。

(金の話はしたくないが)もし、順位を下げることなく賞金を増額できていれば、彼らを、彼らのうちの誰か一人でも、少なくとももう一年は手放さなくてすんだかもしれない。みすみすそのチャンスを逃したことが悔しくてならない。プロなんだから稼げるチームにしなければならない。サポーターにだって、絶対にその一担はある。
テル、イチ、西部、フローデ、青山、本当にごめんな。申し訳ない。


     


でも、お疲れさんもありがとうも、まだ言わないでおくぜ。
最終章があるもんな。