エスパルス天皇杯準々決勝 / 高級品と札束攻勢

アウスタに着くと、いつもとはちがう前座試合が始まっていた。
清水と静岡の特別支援学校の試合だった。女子生徒もいる団子状態の混戦の中でとにかく前にボールを蹴り出す。そうやって集団で少しずつ押しこんでいってゴールが決まればガッツポーズが出る。試合は一方的なものだったが全員整列してスタンドに挨拶する顔はみな誇らしげだ。障がいがあろうがなかろうが、サッカーをプレーする喜びは誰しも同じなのだ。


     




【 12月25日 / 天皇杯準々決勝:清水 1(PK 5-4)1 山形 / ‘高級品’】



モンテディオ山形は今季リーグ34試合で29得点。この数字は降格する京都、湘南を下回るリーグ最少。それでも降格ラインを頭一つ抜けて13位でのフィニッシュは、いかにしたたかに戦ってきたかの証明だろう。外国籍選手に頼らず(韓国人の三人だけ)現在代表クラスの選手もいない。お世辞にも恵まれているとはいえない戦力でも、やり方次第では残留できるというお手本だ。
個人的に、強い弱いは抜きにしてフェアな好チームの印象があるし、山形サポーターの熱心な声援ぶりにも好感を持っている。こういうチームならば応援のしがいもあるだろう。もし自分が山形県人ならばモンテ・サポになっていたかもしれない。


     


リーグ終了から三週間。おそらく山形・小林監督は清水対策を充分浸透させてきた。それこそ「肉を切らせて骨を断つ」べく戦術を徹底してきた。対して清水・長谷川監督は…、相手に合わせる柄ではなかった。それは健太以前からもずっとエスパルスのチームカラーのようなものだ。(それが来季は変わりそうな予感がしている)
百戦錬磨の小林監督の目算が外れたのは、本田拓也の難関ぶりだったかもしれない。山形の攻撃陣はことごとく彼の厳しい検問に遭って通行許可はめったに下されなかった。彼はこの試合であらためて‘高級品’であることをまざまざと見せつけた。噂どおり彼が移籍してしまうのなら、残念とか悲しいとか言っている場合ではない。強力な防人だった男が来年は‘天敵’として立ちはだかることになるのだから。


     



どんなに寒くてもいつも半袖シャツの岡崎が長袖を着ている。いつもは軽く手を上げて応えるのに、チャントを送られた兵働が今日はいちいちサポーターに向かってお辞儀をしている… 試合前のそんな些細な異変が気になって仕方がなかった。
だが、来季の契約と新体制移行の狭間でチーム状態はバラバラかもしれないなんていうのは素人の感傷に過ぎなかった。試合が始まればそれがプロの意地なのか本能なのか、目の前のボールをめぐって、マークする相手を追って、ひるむことなく激しく厳しく身体をぶつけていく。余計なフィルターをかぶせて試合を見る必要などなかった。
あいかわらず石川竜也のクロスの軌道は憎らしいほど美しく多彩だった。彼の左足もまた錆びつくことのない逸品だ。あのキックを目の当たりにしてしまうと、うちの宏介などまだまだ未熟だと思わされる。
今季リーグ第2節 のときにも書いたが、静岡を離れていくつものクラブを渡り歩いてきた石川のような選手だっているのだ。テル、イチ、甲府でも頑張れよ!


     
     



試合は延長後半、先制された直後にCKからボスナーのヘッドで追いついた。今季はヨンセン、ボスナーと高さで勝る戦力だったはずなのにセットプレーからのゴールは数えるほどしかなかった(岡崎のヘッドも減った)。
そのままもつれこんだPK戦エスパルスが五人全員が成功して準決勝に駒を進めた。
(金の話はしたくないが)これでベスト4の賞金獲得(三位以上)も決まった。健太は「費用対効果」を自賛していたが、今こそ貪欲になってほしい。高原の給料を上げてやるためにも、「DAIGO」に札束をチラつかせるためにも、そして何より、まだ見ぬ将来のオレンジ戦士のために、もう一声!