小曽根真 / ロード・トゥ・ショパン


知人にもらった今年のカレンダー二点。


          


一つはヤマハ・ミュージック・カレンダー。一月の坂本龍一氏に始まり上原ひろみさん、小曽根真さんもいる。カレンダーには作曲家やマエストロの誕生日が記入されているのも楽器メーカーっぽくて良い。
もう一点はA2判のドイツ・グラモフォン大型カレンダー。毎年タワーレコードで買っているのだが、今年は買い忘れていたところで、いただけるなんてラッキーだった。
ムター、グリモー、ヒラリー・ハーンに庄司紗矢香さんなど美人演奏家の美麗モノクロ写真が拝めるのは例年のごとし(女性ばかりではないのだが)。2011年のトップを飾るのはもちろん「美人すぎるピアニスト」アリス=紗良・オット様。彼女はこれでデビュー以来三年連続の登場だ。




上原ひろみ / PLACE TO BE -TOUR EDITION- 】


昨年12/1、上原ひろみがスタンリー・クラーク・トリオと共演するライブが静岡であった。しかしその日はよりによって佐野元春デビュー三十周年記念の浜松と同じ日! 佐野元春を地元のライブハウスで見られるなんてこれが最初で最後だろうと、静岡行きを諦めたのだった…


          


ツアーに先駆けて発売になった2009年のピアノ・ソロ・アルバム“PLACE TO BE”のツアー・エディションを買った。ライブ盤かと思ったら、スタジオ盤+ライブDVDのセット。DVDにはツアー終盤、ブルーノート東京での‘BQE’と‘Place to Be’の映像が収められている。
‘BQE’はまさにツアー・エディション、ブルーノートバージョンという感じで、スタジオ録音より酩酊度五割増し、鍵盤なんか見もせずほとんど瞑想状態でスリリングなインプロビゼーションが十分弱もくり広げられる。世界中、ありとあらゆる街のあらゆるピアノを弾いてきた彼女の渾身の演奏。強靱な集中力と緊張の持続から一気に解放されるドラマチックなクライマックスは映像で見ていても大拍手!
このツアーの間ずっと彼女が着ていたピアノ柄のワンピースはよれよれになっていて腿のあたりには大きな穴があいていた。同じコンセプトのプーマのピアノ柄スニーカーも履き古されている。ライブ本数の多さと演奏の激しさを物語っていて、浜松での熱演を思い出した。




【 小曽根 真 / ロード・トゥ・ショパン “Road to Chopin” 】


昨年はショパン生誕二百年ということでショパン・アルバムが続々とリリースされて、自分も何か聴いてみようと思ってはいたんだけど、どうもピアノ曲というのは敷居が高く感じられて選びかねた。強いて挙げればアルゲリッチの作品だが、自分にはあの人はコンツェルト弾きのイメージが強すぎる。もし奥泉光氏が『ショパンの指』を書いていたなら作中に登場する曲を必ず聴いたはずなのだが。


そもそもピアノを弾かないのに特にショパンを好きという人などいるのだろうか。耳にすれば「これショパンだよね」と言える有名なメロディのいくつかは自分だって知ってはいるけど、べつにそれは演奏者は誰だっていい。
そんなクラシックピアノ・ビギナーの自分が「これは良い」と直感したのが、ジャズ・ミュージシャン、小曽根真氏のショパンだった。


          


聴いていても、どこまで楽譜どおりでどの程度アレンジしてあるのか、それすらわからない。ショパン演奏として良いのか悪いのか、正しいのか正しくないのか、あるいは上手いのか下手なのか、そんなことはわからない。
でも、即興演奏のスペシャリストが同じ楽器を駆ってピアノ音楽の代名詞ともいえる世界の大古典に挑む、その真剣な覚悟はひしひしと伝わってくる。かつてキース・ジャレットとチック・コリアが弾いたモーツァルトよりも、気高く孤高を誇るショパン。たぶん、どこで耳にしても絶対に「これはオゾネマコトだ」とわかる。自分はこのショパンが大好きだ。


まだ自分が厚顔の微・少年だった頃、駆け出しの、まだ若き青き小曽根真を観たことがある。シカゴ・ブルースの重鎮、生きる化石、ロバート・Jr・ロックウッドの初来日公演。あれは東京厚生年金会館だったか。深夜の高円寺商店街でこっそりはがしてきた(正確に言えば、「盗んできた」)超レアなポスターが今でも家のどこかにある。トリオ編成のバンドのサポートメンバーとしてピアノを弾いていたのが小曽根さんだった。キャリアのほとんど最初期、彼は‘日本人ブルース・ピアニスト’だったのだ。
あれから二十年以上。黒人音楽に魅せられバークリーに学んだ青年が今、再び海を渡ってクラシックに向かう。小曽根真さんの‘渡り’は今も続いているのだ。




昨年末の「N響アワー」はショパン・コンクール2010の優勝者、ユリアンナ・アヴデーエワさんとN響の「ショパン:ピアノ協奏曲第1番」だった。
五年に一度、生誕200年記念、ショパン・イヤーのコンクール。女性優勝者はアルゲリッチ以来、実に45年ぶりとのこと。ピアノを弾く人は圧倒的に女性が多いのだろうに、マスターは男性が多数というのは料理もそうだよなあ…なんて思いながら見た。
アヴデーエワさんは25歳。インタビューでも実に堂々と自分の音楽と人生観を語っていて、ちょっと日本の若者には太刀打ちできそうもないオーラがあった。




【 アリス=紗良・オット / ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第21番《ワルトシュタイン》他 】


せっかくだからショパンをもう一枚。名盤から選んでも良かったが、話題のアリス=紗良・オットALICE SARA OTTのショパン・ワルツ集を買うつもりでタワレコへ。そうしたら最新作のベートーヴェンソナタは特典として彼女のカレンダー付きで、店頭に一枚しかなかったので迷わずそっちを持ってレジに直行。駐車場に戻ってきて「ショパンじゃなかったっけ?」としばらく自己嫌悪に落ち込んだ。


          


でもCDを聴きながらミニ卓上カレンダーのアリス様を一枚ずつ見てはにやにやしていたのだった。

アヴデーエワさんもそうだが、このアリスも若いのに、とても大人っぽくしっかりと自分の意見を話す(日本語も流暢に話せる)。ただ有名音大に進んでそれなりのレッスンを経て演奏技術を身につけましたというだけでないのは話の端々からすぐわかる。偉大な作曲家を身近に意識していて、それを自分が演奏することのモチベーションの高さをきちんと説明できる。どうしてその曲を選び、どのようにピアノに向かうのか、それを他人に明確に語ることも、きっと重要な才能の一つだと思う。
正直に書けば、自分には彼女の演奏がどうなのかはわからない。十代でグラモフォンからデビューしたのだからその才能は折り紙付きなのだろうけど。でも、この人は良い。何の根拠もないが、そう感じる。


今、彼女のプロフィールを見ていたら「弱冠13歳にして浜松国際ピアノ・アカデミーでモスト・プロミッシング・アーティスト賞を受賞」とある…(!)浜松に来たことがあったのだ。ならばいつかまた来てくれるかも、と思ったら、現在来日していてリサイタル・ツアー真っ最中なのだった。
ライブレポートを見ると、彼女は裸足で演奏していたという。「裸足のアリス」……ペダルを踏むアリス様の素足、最前列で見たい拝みたい!(←そこか?) 演奏会後にはサイン会もやってるらしい。いいなー。いつか絶対に生アリス様を見に、いや、聴きに行くつもり。