高校女子サッカー / ふり向くな、君は美しい


なでしこ世界一から一週間。磐田市で毎年恒例の全国高校女子サッカー選手権が始まった。
昨年と一昨年は仕事で観戦できなかったので三年ぶりだが、個人的には夏の風物詩といえるこの大会。ひたむきでクリーンで、そして、ちょっぴりせつない。この大会にはサッカーの原点がある。


     



【 7月23、24日 第20回全日本高等学校女子サッカー選手権 一・二回戦 】



      



・7月23日一回戦 : 富山国際大付属高(富山)−常磐木学園(宮城)

三会場で始まった一回戦16試合の中から、世界一メンバーの熊谷、鮫島さんの出身校でもあり優勝候補の強豪・常磐木学園の試合をチョイス。
スタメンの背番号が十番台、二十番台が多いのでパンフで確認すると、二年生主体で一年生の選手も出ている。明日の二回戦での対戦が予想される常葉橘(静岡)を見すえて主力を温存ということらしい。
それでも試合はワンサイドゲームに。サブメンバーでこの強さは層の厚さの証明だろう。よく鍛えられているという印象。
大差がついても最後までボールに食らいついて健闘した富山国際大付属は創部三年目の初陣だった。
追いかけても追いかけてもボールが取れない。触わることすらできない。同じ高校生に格の違いを見せつけられる。勝負は確定しているのになおも残り時間はたっぷりとあって、炎天下に走り続ける苦しさと、恥ずかしさと悔しさと馬鹿馬鹿しさと。高校ラストゲーム、自分もぐちゃぐちゃな心でプレーしたことを思い出した。

     



二回戦では奇しくも地元静岡の二チームと仙台の二チームが対戦することになった。竜洋→ゆめりあに会場を移動して二試合を観るスケジュール。



・7月24日二回戦 : 藤枝順心高(静岡)−聖和学園(宮城)

聖和学園は第一回大会の覇者であり、三度の優勝を誇る名門校。仙台に全国レベルのチームが二校あるのだ。今回は震災を乗り越えての大会参加となった。
キックオフ直後に藤枝が先制すると、3分にも追加点を挙げて完全に勢いに乗った。次々に中盤の選手がDF裏のスペースに飛び出してGKと1対1の場面をつくる。MF植村⑩は名波を小型化したようなレフティで好パスを連発し、また自らも得点を重ねた。
聖和は一、二年生のDF陣が対応できず。予想外の大差になった。

     
     



・7月24日二回戦 : 常葉学園橘高(静岡)−常磐木学園(宮城)

昨日の一回戦とはガラリとメンバーを変えて主力を並べてきた常磐木。昨年のU-17W杯準優勝メンバーのFW京本、MF仲田がいる。一方、常葉橘にも3人の代表選手を擁する。ユース代表クラスの選手が多数いチーム同士、好ゲームの予感。
スピードとフィジカルに勝る常磐木が決定機を多くつくるも橘GKが好守でしのぐ。橘も前線に効果的なボールを入れて常磐木のラインを押し戻す一進一退の攻防で、前半は無得点。
後半も常磐木が攻勢、橘が逆襲の時間が続き、PK戦の可能性も漂い始めた頃、ピッチをワイドに使ってとうとう中央をこじ開けた常磐木が先制。この失点に焦ってバランスを崩した橘からさらに二点を奪って突き放した。
常磐木学園は攻守に隙のない完成されたチーム。攻撃的だがDF陣のチェックも厳しく守備も堅固。ここを止めるチームがあるのだろうか?

常磐木の左MF仲田⑪(U-17代表)はスピードにのったドリブルとコントロールされたクロスが武器。その左足は強烈で、ちょっとロベカルを彷彿とさせる。

     


この試合、自分が最も注目していたのは常葉橘のMF高木ひかり⑩。この日はCBとしてプレーしていたが、彼女は天才。
実力差が大きいこの年代ではドリブルや個人技に秀でていても、この先で通用するかどうかは未知数だ。でも彼女のボールタッチ、視野の広さ、センスと戦術眼の高さはまぎれもない本物。敗れたチームにあって彼女には清商時代の小野伸二のような堂々たる風格があった。

     



これでベスト8が決まった。藤枝順心の準々決勝の相手は、あの‘2010FIFAベストゴール’の横山久美を擁する十文字高校(東京)。
常磐木学園が横綱級だとすると、藤枝は関脇か小結ぐらいか。だけど、キャプテンを中心に溌剌と明るいムードは見ている者も楽しくさせる。全員がよく声を出して、よく走り、そして笑う。それだって‘力’だ。今日のように最初からガンガン飛ばすサッカーで、最後まで残ってほしい。朗らかにがんばれ、藤枝順心


16回大会(2007年)に本大会初出場した常葉橘イレブンの雄姿は今でもよく覚えている。いや、イレブンではなかった。十人しかいなかったのだ。たしか三年生は二人だけ、あとの八人は一年生だった。始めから一人少ない。交替メンバーはいない。でも、足りないのではない。この十人がベストの十人。そんな気高き‘奇跡のチーム’を母体にしたサッカー部が、今や名門・常磐木学園高と堂々渡り合うまでに成長した。
JOURNEY WILL GO ON. スピリットは受け継がれる。‘なでしこ’のピラミッドの下、ここにも伝説の途中の小さな物語がある。



昨日32チームで始まった一発勝負のトーナメントは、大会二日目にしてすでに24チームが姿を消した。
代表でチームメイトだったのだろう、大会を去る常葉橘の後藤を常磐木の京川がなぐさめていた。勝手にBGMが流れだす。正月にしか聞かないあのイントロが頭の中に聞こえてきた。

     


それから家に着くまで、運転しながらずっと‘あの歌’を歌っていた。