エスパルス21節 / ボスナーの下敷き


スタジアム行きのシャトルバスは混んでいた。いつにも増して親子連れも多い、盆休みのホームゲーム。連敗ストップをかけた大事な一戦。もし今日も惨敗したら……。予報に反して今にも降り出しそうな空模様を眺めると、つい暗いことを考えてしまう。と、そのとき、エンジン音に混じって衝撃的なフレーズが聞こえた。

  「そういえばカナ、ボスナーの下敷き持ってたよね」
  「うん、今も使ってるよー」

何? いま何って言った? ボスナーの下敷きって言ったよな。ボスナーのバッジなら持ってるけど、「ボスナーの下敷き」……この世にはそんなものがあるのか? この世というか、清水には。
ちらっと見ると、学生っぽい女子三人組。三人ともフツーに涼しげな私服姿でエスパルスグッズの一つも身につけていない様子はオレンジ軍団ご一行様の車中で異色。どう見てもこれからエスパルスの応援に行く風情ではない。ましてや、マニアックにもエディ・ボスナーのファンだとは到底考えられない。
それからその下敷きのことが気になってしかたなくなった。どういう図柄なのだ。それ、本当にボスナーなのか? ヨンセンとかと間違えてんじゃないか? 写メとかないのかよ。じろじろ見るわけにはいかないが、ちらちらカナちゃんだかカナエちゃんだかの方を気にしていると、もうバスは日本平の坂にさしかかっていて、彼女らは「わぁーすごいいっぱいいるぅ〜」と外の光景にはしゃいでいるのだった。


     




【 8月13日 / Jリーグ第21節:清水 3−0 大宮 / ボスナーの下敷きと、たくましいエダムラ】



アウェー三連戦を三戦とも0-4の惨敗でホームに戻ってきたエスパルス。何かワースト記録でも狙っているのだろうか? 無得点もいただけないが、12失点の大盤振る舞いはサービスしすぎ。リーグ終盤には必ず得失点差で順位が一つ二つ変わる。ことは獲得賞金にも関わってくるだけに、手痛い大損害だ。
しかもC大阪、広島、新潟と、混戦の中位にあって最終的な順位争いの直接の相手になりそうなチームばかりというのも悔しい。こういうときばかり、ふだんサッカーの話なんてしない同僚が「エスパルス弱いっすねェ」とか話しかけてくるのも腹が立つ。おまえにエスパルスの何がわかるってんだよ、と半分本気で首をしめてやるのだが。


停滞、低迷の重苦しいムードで始まった試合は、前節までの鬱憤を晴らす快勝劇となった。先制を許せば一気に瓦解するかもしれないプレッシャーの中、選手はよく踏ん張って戦ったと思う。
その立役者、先制ゴールの枝村匠馬。ちょうど一年前、鹿島戦での電撃ゴール以来の‘孝行息子’の帰還。あれからもう一年が過ぎたのだから本当に早いものだが、彼にとっては「やっと」の思いがあっただろう、嬉しい今季初ゴール。


     
     


久々のヒーローインタビュー。いつもボソボソと低い声で話す彼が、いつになくしっかりした受け答えをしていて(笑)、力をこめた「これからもっと頑張ります」の言葉に実感が滲む。
枝村… 成長したな。枝村だって大人になるのである。「エダ、たくましくなったねー」というオヤジギャグは自分ではなく後ろに座っていた老夫婦の声。で、結婚はまだか?


前半の黄色いスパイクからいつものオレンジに履き換えた小野がマジカルなショットで続く(ずっとファインダーをのぞいていたので彼がどんな瞬間芸をやってみせたのかわからなかった)


     
     


高原も豪快に叩きこむ。これで3-0!


     
     



終了前、昨年天皇杯エコパでのガンバ戦以来に響き渡る「ヴィクトリー」大合唱。
その最中にラストチャンスはボスナーFK。0-4の屈辱は4-0で返そうというのか。これが今日のオチなのだと確信して「ボスナーの下敷き、ボスナーの下敷き…」と念仏のように唱えながら見守ったのだが、惜しくも決まらなかった。
この日のプログラムはボスナーが表紙。カナちゃんは買っただろうか?


     


チームとしてはもちろんだが、選手一人一人が葛藤を抱えながら臨んだこの試合。岩下の思い、村松と海人の健闘も忘れられない。
大宮にも決定機は多かったし、大量失点のリスクが完全に払拭されたわけではない。ただ、もっと前で勝負すること、早めにチェックに行ってつぶすこと、守備からリズムをつくっていくこと。そうすればそうそう四失点なんてしないということがはっきりした試合でもあった。
これからエスパルスの逆襲が始まる。今日だけはそう信じていいだろ?
来週はセレッソ戦が控える。ナビスコ二回戦は新潟が相手だ。借りを返そうではないか。