清商全国へ!〜ロマンに賭けろ


今ごろ心ある大多数のサッカーファンは五輪予選の中継を見ているにちがいない。
自分は今日行われた高校サッカー静岡県大会・決勝の録画を見終えたところで、忘れぬうちにとPCに向かっているところである。



【 11月27日 / 第90回全国高校サッカー選手権静岡大会決勝:清水商 3-0 静岡学園 / ‘ロマンに賭けろ’ 】



選手権決勝といえば自分などは黄色い芝と傾いた黄色い光線に包まれた草薙の光景がすぐ目に浮かぶのだが、近年はだだっ広いエコパで開催されてきた。それが今年はアウスタで初開催。しかもカードは「静岡学園vs清水商」! OBも大勢来るだろうし、エスパルスよりワクワクするゲームになるのは間違いない!ということで 観戦に行くつもりだったのに、愚かな同僚の仕事につきあうはめになってしまった。
移動の車中でひとくさり彼に文句を言い、あとは仕事の話はそっちのけ、延々とサッカー談義にふける。そして、缶コーヒーを賭けて決勝の予想をしあった。
リアリストの同僚は昨年と同スコア「3-1で静学」。愚か者めが。ロマンチストの自分は鼻で笑って「2-0で清商」。だって清商の方が物語性があるだろ? そうしていつも負けて泣くのも自分だってわかってるけど、でも男ならロマンに賭けるべきだ。三島由紀夫も言ってる―「自分に賭けるときそうするのだから、他人に賭けるときにもそうすべきだ」って。
現場では始めだけ立ち会って、あとは同僚に任せっきりで自分は車に残ってひとりSBSラジオの中継に耳を傾ける。ラジオでサッカーを聞いてもさっぱりわからないのだが。でも、清商サンバが聞こえてくる。同級生の歓声と悲鳴が交錯する。アウスタのピッチが見える……



急いで帰宅して、ビデオを再生した。
大滝監督が定年を迎える。清商のエースナンバー8を纏う風間(弟)の存在。十一年ぶりの全国切符をかけた戦い(小林大悟佐野裕哉のときを最後に清商はもう十年も全国の舞台から遠ざかっていたのだ)。そして、来年度をもって「清商」の名が消える……
選手入場。どちらかがアウェー扱いにされるのではなく、両校ともにホームカラー、緑と青のユニフォームなのがいい。
それから校歌斉唱。「男子よ立つべし しかく清けく」(作詞:北原白秋、作曲:山田耕作) 自分の母校の校歌なんていつか忘れたのに、なぜか清商の校歌は歌えるという… 名波や川口や小野も歌ったこの校歌まで、なくなってしまうのだろうか?


清商が勝つとしたらこういう形でしかない。静学が負けるとしたらこういう形でしかない。試合はそういう展開になった。つまり、清商・大滝監督の目論見どおり。
決戦を前に「テクニックで圧倒する」と豪語していた静学が自信満々に攻撃を仕掛ける。清商は狭いエリアに誘いこんでグループでボールを奪うとサイド裏を素早く突く。手数では静学が勝るが効果的なジャブは清商。清商が守るというよりは守備力で対抗して、静学はコンパクトな陣形を保ちきれなくなっていく。ほころびが見えてくる。清商の左からの速攻が切れ味を増していく。散発的にカウンターが三回決まったのではない。それまでに静学DFをビビらせ下がらせるだけの十分な伏線が張られていたからこそ、三回とも決めることができた。
テクニックに溺れた。あるいは、テクニックはあっても、テクニックを発揮するテクニックはなかった。静岡学園の敗因はそういうことだろう。
そして清商はリアリズムに徹して勝った。



あくまで「部活」の範疇にあって、強豪ひしめく選手権で上位に進出するだけの力はないかもしれない。でも、清商の物語はサッカー部の歴史にピリウドが打たれる感傷にとどまらず、未来への希望もはらんでいるのである。
今回の決勝に特に注目したのは、つい数日前、清水西高の小柄な2年生が、静岡も日本も一足跳びにAFCのビッグタイトル「アジア年間最優秀ユース選手賞」を獲たからだ。
このニュースを同年代のプレーヤーはどう受けとめただろう。特に今日、獅子奮迅の活躍を見せた清商のキャプテンにしてエース、風間宏矢は。最大のライバルはすぐ近くにいたのである。その報せは決勝を前にたださえ昂ぶる彼のモチベーションを必ずやいくらかさらに押し上げたはずだ。
エスパルスユースの石毛秀樹と清商の風間宏矢。いつかきっと、この二人の運命があいまみえる日がやって来る。そう信じることは、静岡のサッカーファンとして幸せ以外の何ものでもない。今日がその希望に向けた第一日目、だったかもしれないのである。


          
(画面撮りしてみた。今夏のSBS国際ユースサッカー、U-18日本ユースを撃破した静岡ユースの両雄。決勝ゴールの石毛君とアシストの風間君)


石毛クンに関して言えば、彼はまだ17歳なのであり、来年、さ来年も同賞を受ける権利がある。連続受賞できなければ、誰かに抜かれたということになるのかもしれない。国際大会で印象を残すのが前提なのでチャンスは限られるけれど、18、19歳で受賞してこそ価値は増す。
彼はインタビューでの受け応えの態度もしっかりしていて、自分の言葉できちんと話せる賢さがある。それはサッカー選手として優れた資質を示す。まずは壊れない身体をつくって、どうか貪欲に精進してほしい。


今日の決勝、両チームのメンバーに四人も「翼」という名前の選手がいた。「キャプテン翼」世代が親ということだろう。この翼クンたちの世代、新感覚の好選手が多そうで楽しみなのだが、その中で一人でも清水育ちの選手が生き残ってほしい。
エスパルスは今日の決勝に懸けたあの子たちの憧れや目標になれているだろうか。いつか清水育ちの選手が一人もいなくなったとき、自分はそのエスパルスを愛せるだろうか? 清商がなくなることから、ついそんなことにまで連想が広まってしまう。