エスパルス2012:YNC第2節 / プリンスの片鱗


新年度が始まったばかりというのに午後休を取ってアウスタへ。三月のホーム開幕戦と第二戦は仕事でフイにしたので、そのリベンジ。もうガマンの限界、休暇取得申請書にはオレンジのペンででっかく「エスパルス休暇」と書いて出しておいた。
自分にとってようやく春、2012シーズンの開幕である。



【 4月 4日 / YNC第2節 :清水 1−0 新潟 / ‘プリンスの片鱗’ 】



リーグは早四節を消化して二勝二敗。テレビで見るかぎりは新戦力が予想以上にフィットしていて、昨年よりずっとマシな印象。ホームで勝って、まずは五割をキープしていけばいいぐらいの気持ちで見ている。
今日のナビ杯初戦は若手主体のメンバー構成とアナウンスされていたので、楽しみにしていた。清水の‘秘蔵っ子’石毛クンがついにデビュー。高卒ルーキー白崎と犬飼も初スタメン。姜成浩にもやっと出番が回ってきた。


石毛と白崎がのびのびプレーできたのも二列目の大悟と枝村の気配りがあったからこそだろう。
試合前のシュート練習、大悟は右足でも左足でも、ゴロでもボレーでも、易々とネットを揺らしていて、あらためて彼のシュート力に舌を巻いたのだった(それを見れただけでも来た甲斐があったと思えるほど見事だった)。そのときから集中力が漲っている感じだった。試合中も、ボールタッチのリズムを変えるだけで軽く相手をいなす場面が何度もあって、そのたびに「上手い!」と唸らされた。
若い選手たちの期待どおりの(あるいは、期待以上の)働きが目立った試合だったが、自分にとって最大の収穫は「小林大悟」が戻ってきたこと。90分プレーした。長い距離を自陣まで走って守備での貢献も目立った。そして何より、ゴール前の「10番」がいるべき場所に、今日の彼は必ずいた。コンディションの向上とともに風格も格段に増して見える。二年前、当時の10番・藤本が劇的な復活を果たしてチームを牽引したように、いよいよこれから本物の「小林大悟」が見られるのではないか。
枝村も良かった。前にスペースがあれば自らドリブルでボールを運ぶ彼を久しぶりに見たような気がする。大悟との距離感も良くて、彼がぐっとスピードを上げればチーム全体のスイッチが一気にオンになるようだった。先制点の場面、ゴール前で立て続けに大悟と石毛にラストパスを渡したのは枝村だった。飢えたハイエナのごとくゴール前をうろつく彼がいたから、新潟DFは混乱したのだと思う。


     

     


石毛は右サイドで菊地直哉と堂々と渡り合った。やりにくかったのは菊地の方だったろう。17歳を相手にするなんて誰だって嫌な役回りにちがいないが、自分の地元でもある清水の現役高校生に負けるわけにはいかないではないか。しかし、その高校生が「ただものではない」としたら。もしかして「モンスター」だとしたら。 小柄だし、圧倒的なスピードがあるわけではない。高度なテクニックを駆使するのでもない。それなのに菊池にはなかなか止められなかった。
特別な高性能ではなさそうなのに、つかまらず、つぶされず、奪われない。賢く味方をフォローしながら、巧みに自分の時間とスペースを創り出して、いつのまにか自分よりずっと経験豊富なはずの相手を支配下に置いてしまう。つまり、「良いサッカー選手」としての資質を石毛は見せた。忘れちゃいけないのは(←セルジオ越後の口調)、彼はメッシではないということ。ボランチもサイドもこなせる、まずはオーソドックスなミッドフィルダーであって、ストライカーではない。サポーターとして、17歳の彼に過分なプレッシャーを押しつけないようにしたい。
今日の石毛も白崎も片鱗を見せたに過ぎない。まだ、これから、ここから。プリンスの座に甘んじてもらっては困るのである。下剋上。クーデター。物騒な単語は使いたくないが、今日つけた火が近い将来、燃えあがるのを心待ちにしている。


     

     


何度か新潟ゴール前で団子状態の混戦になった。清水の選手がペナルティエリアに五人も六人も殺到して相手のクリアを許さないという状況はトップチームの試合ではめったにお目にかかれない迫力だった。同じシステムでも選手がちがえば内容も変わるのは当然としても、それ以上に選手個々の「意気込み」の熱さが伝わってきた。

     
          

     


初登場組にまぎれて全然目立たなかった河井も恐るべし。彼だってルーキーなのに、もうずっと前からチームにいるかのように、当たり前のように本職ではない左SBをやっていたのには驚かされた。サッカーをよく知っていてセンスがあるからこそなのだが、要するに、彼も「優れたMF」というのではなく「良いサッカー選手」なのである。ただ上手いとか、速いという選手ならざらにいるが、肝心なのは‘サムシング’なのである。河井はルーキーの自分よりもっとルーキーな石毛と白崎を後ろでどんな気持ちで見ていたのだろう。小野、大悟から石毛まで。センスを磨きあうのにこれ以上の環境はないだろう。
後半、鍋田が送りこまれてピッチ上にはユース出身者が五人になった(枝村、海人、鍋田、石毛、犬飼)。これはエスパルス史上最多のユース組占有率だったのではないか?
それでも今年、期待しているのにまだ見られない選手がいる。八反田康平。今日の姜も良かったし、村松も好パフォーマンスを続けている。吉田も含めてチームに‘ファイター’が増えたのは心強いが、ボランチに‘インテリジェンス’の選択肢をもう一枚加えたい。
シーズンは始まったばかりなのに、これはちょっと来年以降もエスパルスから目が離せないぞと思わせる夜だった。