エスパルス2012:第9節 / ゴトビ・ミステリー


前節のアウェーFC東京戦、エスパルスは二名の退場者を出しながら、高木俊幸の起死回生の一発で勝った。
一人少なくなったチームがより奮闘して試合が白熱することはサッカーでは往々にしてある。そもそもCF不在の今のエスパルスは始めから十人で十一人の相手に対抗しているようなものだから、二人減ったとはいえ実質はアレックス一人減だったといえる。
― 皮肉を言いたいのではない。まとも、というかまあまあ普通のCFがいればもっと強いのに、という話である。それがいないばっかりに、質を問わない、ややこしい試合をしてしまっている。
惜しい。本当に惜しい。欠けているピースは一つだけ。CFがいないばかりに(本当にいないのか?)エスパルスのサッカーはサーカスみたいになっている。


前節、前々節のジュビロ山田大記の左足による2ゴールは隣の敵ながらあっぱれなスーパーショットだった。
(たまには)魂のゴールもけっこうだが、自分はもっとビジネスライクなゴールを見たい。点撮り屋が職人的に淡々と黙々とゴールする光景が見たい。感動のゴールはもっと後にとっておきたい。



【 5月 3日 / Jリーグ第9節 :清水 3-0 鹿島 / ‘ゴトビ・マジックorミステリー?’ 】



今日期待したのは、出場停止のフランサの替わりにトップを張る選手のゴール。
前半五分、その伊藤翔がゴール前のこぼれを詰めて先制。

     

吉田の低く速いクロスに、鹿島DF岩政があわやオウンゴールのクリアミス、GK曽ヶ端が弾いたボールが翔の足もとへ。いくらなんでもあれならジミー・フランサだって決めるだろうというゴールだったが……
あまりに早い得点に「1-0病」のエスパルスも戸惑ったのか、その後は圧力をかけて前に出るのかどうかはっきりしない時間が続く。あいかわらずシュートは少ないまま前半終了。



後半、鹿島が前がかりになって中盤にスペースができ始めると、前半消えていた高木と河合が存在をアピールし始める。前線のポジションが流動してドリブルでかく乱しだすとペースはエスパルスに傾いて好機が増えるのは今季の特徴。1-0で勝ってはいても、手堅い印象はない。ある程度守備は計算できるので、オープンな展開に持ちこんで‘ビッグショット’で勝つ。そんなゲーム展開になった。

得意なはずなのに撃てども撃てども昨年は決まらなかった‘俊幸ゾーン’からのショットを高木があっさり沈める。

     
     


高木が決めたとき、大前も高原もバイタルエリアでフリーで待ちかまえていた。「元紀クンへお返し」とばかりに高木がダービー二点目を再現するかのようなプレゼントクロスを送ると、大前が鮮やかにボレーで突き刺した。

     
     


その三点目は高原が‘鬼キープ’のポストプレーで群がる鹿島DFのチェックを破ったことから生まれた。あの‘タカ・ターン’!早くそれをゴール前でやって見せてほしいものだが、いくらなんでもこればっかりはジミー・フランサにはできそうもない芸当だった。
先制点の場面から浮き足立って「らしくなかった」鹿島より清水の守備が良かった。囲む、寄せる、切る。90分間ずっとプレーが明確だったのは清水DFの方だった。3-0というスコアは守備の差でもあったが、それは鹿島のボランチより清水のボランチの方が強かったということでもある。
攻撃面であまり目立たなかったとはいえ、河井は同級生・村松を常に近くでサポートし続け潤滑油として働いた。二人のホットラインはエスパルスの新しい生命線になっている。

     



昨年のホームでの鹿島戦はスコアレスドローだった。ゴトビ監督は「チャンピオンチームをリスペクトして」急造のダブルボランチの守備的布陣で臨んだが、退屈な内容に終始して不満がつのった。日本平での鹿島戦はそういうものではない。清水サポーターの期待に背く試合に大きな失望をおぼえた。
一年間戦ってきて監督も慣れてきた。なんというか、ここ(アウスタ)のムードが醸す‘清水的なメンタル’みたいなもの(!?)がわかってきたのではないだろうか(笑)

二年目のアメリカ人監督の采配には不可解な部分があるにもかかわらず、結果は伴う。この試合でも伊藤翔を最後までピッチに残した。あえてスタンダードを無視しているのか、幸運なのか実力なのかはいまだに量りかねる。懸案の「フランサ固執問題」は、もしかしたら両ウィングと中盤だけで点を獲ってこいという秘密のメッセージなのかもしれない。ジミー・フランサとはFWの亡霊にすぎないのだろうか…? だが、もしもフランサがまったくの役立たずなら、練習段階からとっくにチームバランスは崩れているはずなのだ。
マジックなのかミステリなのか。この結末は(…以下ネタバレ) 高原が完全に戻ったら右からも左からも真ん中からもポコポコ入れちゃうチーム!?


     


昨年の鹿島戦の前、仙台をストップしたのはエスパルスだった。碓井のPKストップとアレックのボレーで勝ったあの試合だ。次節、今年もここまで無敗で首位を走る仙台に乗りこむ。