エスパルス2012:YNC第6節 / 新しいスパイク


代表ウィークである。W杯最終予選の三連戦がある。ユーロも開幕した。ミスは許されないシビアな戦いが行われている。
オマーンとヨルダンとの代表の二試合を見てつくづく感じたのは、戦術がどうあれフォーメーションがどうであれ、チームの命運は最終的にエースが生きるかどうかに尽きるということである。日本のゲームを決めるのは、もはや欧州の実績で大きく上回った香川なのではなく、本田なのだということ。
どんなに革新的な戦術が編み出されようと、最終的にゴールに結びつかいのなら、それは机上の空論でしかない。イブラヒモビッチがいるのなら後方の組織に重点を置けば良い。ファンペルシーとロッペンがいるのならトータルフットボールにこだわる必要はない。個(タレント)と戦術はニワトリと卵のようなものだが、絶対的な王が、怪物的な存在がいるのなら、戦術は自ずと決まってくるのである。



【 6月 9日 / YNC第6節 :清水 3−1 大宮 / ‘数的優位、数的不利’ 】



札幌戦の後、中二日で迎えた今日の試合。大宮のスタメンにはチョ・ヨンチョルがいた。この一、二年、エスパルスの‘天敵’となっていた新潟のアタッカー。個人的には好きなタイプなのだが、清水戦にはいてほしくない選手だ。
右サイドでスタートしたそのチョと清水・キジェの韓国人同士のマッチアップがこの試合の鍵になるかもしれないと思っていたのだが、エスパルスが全体的な出足で勝って立ち上がりから主導権を握る。ホームチームらしくボールを奪取・回収してサイドに展開、攻勢に出る。
だが、そこまで。手詰まり感はあいかわらず。ボールも人もよく動いてはいるものの、それが相手DFラインの前だけでは数的優位にはならない。どこかで打開しなければならないのだ。ゴトビ監督は「サッカーは相手にスペースを与えず、自分たちのスペースをつくる競技だ」というようなことを言っていたと思う。どこかの監督には「清水のゴールはサイドにあるのではないか」と揶揄されたが、スペースをつくってそこを突くところまで、なかなか行けない。速い選手はいるのに、そのスピードが活かされない。


     


初めてもらった給料で髪を切り、スパイクを新調した石毛(たぶん)。なんとなくマンチェスターの水色の方の16番に似て見えたのは自分だけだろうか?(先輩に教えてもらった美容室に行き「こういう髪型に」とおずおずとアグエロの写真を見せたのではないか…?!)
水曜日のアウェー札幌戦でプロ初ゴールを決めて帰ってきたホーム。トリッキーなプレーでスタンドを沸かしたが、気負いもあった。FWでのびのびプレーさせようとするのもわかるが、責任感の強い子だけに逆に無理なプレーをしてケガをする危険も高い。トップスピードでアクロバティックな技を見せるのは本来の彼の姿ではない。常に全力で走りながらプレーをするのではなく、一列下から「つくる」「動かす」ところを見たい。


     


なんとなく優位に試合を進めていて、そのうち誰かが決めるだろうというムードの前半。村松が珍しくサイドに深追いしすぎて中を空けたことから先制を許す。
その五分後、‘オレンジ・セキュリティ’が大宮のセキュリティ網を破った。


     


後半、なかなか追加点を奪えなかったが、浩太のフィードに抜け出した大前が倒されてPKを得る。今日のN主審はダイブに見えるプレーをよく見て流していたから、大前が一度ならぬチャージに簡単に転ばないでしぶとく粘ったから与えられたPKだった。一発レッドの判定に大宮側が抗議する中断があって難しいキックだったと思うがよく決めた。


     


退場のジャッジについてだが、個人的には重大な危険を伴わないファウルなら警告(+PK)で充分だと思う。できるだけ退場者をつくらないようにカードの前に主審が選手を呼んで注意するなど、プレミアでは当たり前に行われていることがJリーグでは行われていない。ほぼ真横から見ていて、今日のあの場面は大前が倒れなくてもGKの方が先にキャッチしそうだった。それより前に、高木のクロスにやはり大前が倒された(ように見えた)場面が伏線としてあったのかもしれない。さらに言うなら、今季開幕戦で清水・吉田のプレーに対して名古屋に決勝点となるPKを与え、東京戦では清水の二名を退場させた判定が頭にあったかもしれない。(もし、そういう心理が本当に主審にあるとしたなら、この次のN主審のゲームでは清水は注意しなければならない)


     


十人になった相手に逆にポゼッションを譲ってしまう試合運びには首を傾げた。もたもたしていると前に自分たちがやったことをやり返されるぞ。やはりこの若いチームには「核」がないのだ。数的優位と不利を知る王の不在を思う時間が過ぎる。
そんなイライラを払拭してくれたのは残り十分弱で投入された白崎。ファーストチャンスにパスを選択して好機を逃すと、終了間際に「今度こそ」と華麗なシザーズで相手DFをかわすと迷わず左足で蹴りこんだ。(彼のもスパイクも新しいのだった!)


     


おそらく高校時代は「王様」、同年代のプレーヤーの中では常に一目置かれて自由が許される天才肌の選手だった。清水に来たら、‘もっと天才’がいた。自分など簡単に押しつぶされる、けたはずれにフィジカルが強いオレンジ・グラディエーターも(笑)。出場機会はなかなか巡ってこない。それでもピッチの外、サブ組の中で腐ることなくいつも明るくボールを蹴っていた。
ヒーローインタビューで初めて彼が話すところを見た。数ヶ月前まで高校生だったというのに、しっかりしたものではないか。自分の言葉でしっかり喋れるのはキャプテンの器でもある。若者の真剣な熱意にまぶしく目を細めてしまうのは自分が歳をとった証だが、でも、あどけなき少年の面影の中に将来の王の威光を発見するのは長年サポーターをしている者の特権でもある。


     


ナビスコカップの予選突破がこれで確定した。とはいえ、自分にはまだとてもタイトルを口にするほどのチームとは思えない。それは次の理由による。
今年より来年のエスパルスの方が強いからだ。