エスパルス2012 : YNC決勝 / 優勝未遂、オレンジの狼煙


【 11月 3日 / YNC決勝 : 清水 1-2 鹿島 / ‘革命前夜、優勝未遂’ 】



「前よ、前、前にやんなきゃ、もおっ!(怒)」 「同じことばっかりやってるね」 1点を追う延長後半、隣にいらした母娘と思しき壮年の熱血奥さまとクールなお嬢さんの声である。ふだんはサッカーなんかにまったくに縁のなさそうなこういう方々の率直なご意見ご感想は、時にズバリと真実をついていたりするから怖い。(なんだか自分が責められているような気がしてくる。負け試合の場合は特にね…)


いつもよりパスが強くて速い。SBが両方ともいつも以上に高い位置を取っている。攻撃でも守備でも、ほとんどの場面で全力疾走を繰り返した。運動量と体力で上回る相手にハイペースは意図的なものだったのか、それともやはり決勝の舞台に興奮していたのか。いずれにしろ、緩急をわきまえない一本調子のサッカーを120分やってしまった。一手間かけてスペースをつくってから中に入れる工夫や、相手を焦らす駆け引きや遊びは完全に忘れられていた。
現チームの牽引者、八反田と河井が二人とも退がった段階で、清水に残された手は奇襲だけだった。


     


金+瀬沼、その下に大悟と石毛という布陣でどれだけトレーニングを積んでいたのか。左サイドのケアは充分だったか。先週までダブルボランチだったのに今日はアンカーとして臨む村松のフォローは対策されていたか。河井を並べた方が良かったのではないか。戦術にも采配にも疑問は残る。時間の経過とともに、あらためて今のエスパルスの課題が浮き彫りになっていくようでもあった。
スコアラーはFWに限られ、(石毛も含め)レギュラーMFにほとんど得点がないのは攻撃に厚みがないことの証明でもある。散発的で淡泊。ゆえにシュート数はいつも控えめだ。攻撃は大前と高木の「一発頼み」であって、全体でたたみかける迫力はない。それはこのチーム最大の欠点で、なにもこの試合に限ったことではない。ふだんやっていないことが決勝でいきなりできるわけがない。


     


そう考えれば、まだまだ未熟で稚拙、隙だらけで未完成なヤングエスパルスが優勝賞金1億円に価する集団だったかと問われれば、(自分は清水サポーターでありながらも)首を傾げざるをえない。では鹿島の方が相応しかったのかというと、それもまた疑問ではあるにしても。まあ、現時点の清水は五千万でも上出来。そう思っておこう。
Jリーグ日本サッカー協会もサッカージャーナリズムも、こんな荒削りな、現役高校生と現役大学生が入った即席チームが二十回の歴史を刻む大会に優勝してしまったら、ちょっと困ったはずだ。鹿島なら「勝負強さ」とか「経験」とか「したたかさ」とか、使い古しのキーワードで説明がつく。革命家気取りのアメリカ人監督に冷や水を浴びせる意味でも、清水の準優勝は妥当な結果だった、ということにしておこう。
あの2010年のチームでさえ優勝できなかったのだ。そんなに早く‘革命’が成就されてなるものか! どうせなら、延長までへとへとになって戦った末にようやく勝つのではなく、相手を寄せつけない圧倒的なサッカーで悠々と戴冠しよう。清水のサポーターだけが満足するのではなく、日本中のサッカーファンが認める強さを見せつけて、涼しい顔で紳士的に優勝しよう。
今日のエスパルスは王者として誇るべきクオリティを示せなかった。しかし、いつかのその日のための ―歴史を書き換えるだけの― ポテンシャルは披露したと思う。反撃の、革命の、オレンジの狼煙は今こそ上がったのである。


天皇杯と合わせてカップ戦決勝の戦績はこれで二勝八敗……。チームが若返るのはけっこうなことだが、こちらはどんどん歳をとっていくので、そこんとこよろしく。
来年の年賀状はめでたくエスパルス優勝の写真で飾ろうと思っていたのに、当てがはずれてしまった。





【 11月7日 / Jリーグ第31節 : 清水 0-1 新潟 / ‘ザ・ホーム’ 】



この一、二年の間に新潟も清水同様に主力をごっそり引き抜かれた。名手マルシオ・リシャルデスと永田は浦和に、西大伍は鹿島に、チョ・ヨンチョルは大宮に、矢野と酒井高徳はドイツへ。彼らが去っていくのを黙って見送るしかなかった新潟サポの心情はとても他人事とは思えない。もしかしたら清水だって現在新潟が立たされている苦境に追いこまれていたかもしれない。
でも、そうはならなかった、させなかった。その違いを見せつけてほしい。そう願いながらキックオフを待ったのだが、結果は危惧していたとおりのものになってしまった。


     


獅子奮迅の働きを見せたのは大前。大黒柱の自覚が芽ばえてきたのか、チームを引っぱって勝ちたいという意欲が全身にみなぎる。守備でも貢献しようとする姿勢に、これまでになかった逞しさを感じた。
出番に飢えていた亜人夢も精力的な動きで‘らしさ’をアピールした。吉田もこれまで以上に果敢な攻撃参加を見せ、大舞台を経験して一皮むけた姿を見せた。
チーム全体としては好感触があったはずだが、コーナーから失点すると、そのまま敗れた。


     


これで今季、新潟には二敗。優勝を争う広島と仙台に連勝していながら、要所で勝てないのは相変わらず。堅実な部分が足りないからだが、時間が少なくなっていく後半、バランスを無視してFWを増やす策も見飽きた。瀬沼の良さを引き出せず、鍋田の良さも消えてしまった。好不調の波が大きい高木は信頼できないFWで、周りの負担をかえって重くしている。停滞の元凶である。
前線の枚数を増やすのが得点への近道ではないだろう。いかに圧力をかけて敵陣に綻びをつくるかが試合始めからの根本的な問題のはずだ。ホームでできないことは他所でもできない。成長が必要なのは監督も同じだ。
残りのホーム二戦、G大阪と大宮もアウェーで負けている相手である。残留争い渦中で捨て身の相手の方がモチベーションが高いなんて言い訳にすぎない。一戦必勝を期す若いチームが、相手がどこであろうとモチベーションで劣るなら、それは背信行為である。


四日前の国立競技場、久々に晴れの舞台に立つ誇らしさは格別なものがあった。しかし、伸ばせば手が届きそうな近さのアウスタで応援観戦できる喜びは何にも代え難い。どんなに傷ついたとしても、ここに帰ってくればいい。このホームで鍛えられ、成長し、強くなっていくしかない。帰るべき場所であり、ここから旅立っていく場所。リーグの半分をこのホームで戦えることは、エスパルス最大のアドヴァンテージであるはずだ。