エスパルス2014:19節 / 大榎克己、エスパルス新監督に


【 8月9日 / Jリーグ第19節 : 清水 1-0 徳島 / ‘エスパルスを取り戻そう’ 】



大榎克己清水エスパルス第14代監督に就任した(エスピノーザから数えて)。
今年度Jリーグ(J1、J2、J3)の監督を一覧すると…… 風間八宏(川崎)、柳下正明(新潟)、長谷川健太G大阪)、三浦泰年(東京V)、反町康治(松本)、安間貴義(富山)、田坂和昭(大分)、相馬直樹(町田)、水島武蔵(藤枝)、薩川了洋琉球)。大榎(清水)を加えると、全62チーム中、静岡県出身監督は実に11名を数える。ほぼ6人に1人は静岡所縁の人なのである。
さらに現職ではないものの、代行も含む監督経験者を思いつくままにざっと挙げれば…… ブータン代表監督も務めた行徳浩二大木武佐野達江尻篤彦望月達也、それにもちろん斉藤俊秀、などがいる。ヤマハOBや県関係者も加えれば、当然もっと増える。
このうち清水東高出身者が何人いて、清水FCの出身は…、なんてやっていると昨日の試合の話に進まないのでやらないが、何が言いたいかというと、人材豊富な静岡は監督の宝庫でもあり、指導者にこと欠くなんてことはないのである。川崎フロンターレの近年の監督は、相馬直樹望月達也(代行)→風間八宏。みんな清水FC出身だ。なぜ、これをエスパルスでやらないのか?という話である。


     


就任会見で大榎は、「もう一度、愛されるエスパルスにしたい」と力をこめた。そんなことは本来、新任監督が口にすべきことではない。彼の使命はチームを建てなおし、今より強くする、それだけだ。だが、トップチームを間近に見ていた大榎の目には、今のエスパルスは愛されていないと映っていた。
昨日の徳島戦、入場者は一万一千人。大型台風接近の予報、その影響がより直接的だった四国クラブのサポーター動員が少なかったのはやむをえまい。しかし、それでも夏休み初日、地元育ちのレジェンドがホームで初采配をふるうという一戦にしてはあまりに寂しいスタンド風景だった(実際のチケット販売はもっとあったようだが)。
サポーターの足がアイスタから遠のいた理由については(監督・コーチの査定システムの再考も含めて)クラブ自身の検証にまかせる。ただ、チームへの愛が入場者数という数字に表れるものだとすれば、クラブにとっては毎試合が信任投票のようなものであり、民意を敏感に反映する選挙のようなものであることを、エスパルスはもう一度肝に銘じてほしい。
前任者の功罪はいろいろあると思うが、今回の監督交代について一つだけはっきりしていることがある。選手の立場からすると、プレーヤー経験のない監督よりも、ある監督の方が親しみやすいに決まっている。人間同士の、これはもう生理的な反応のはずだ。


     


徳島戦は気温が上がらなかったこともあって、最後までボールも人もよく動いた。やり方と意識づけ次第でチームにはいくらでも変わる余地があると感じさせるプレーを随所に見られて良かった。チーム全体が一体の生き物のように躍動する試合は久しくなく、生気を欠いた戦いぶりがすっかり見慣れたものになってしまっていたが、この日は違った。
あと一歩のところまで攻めながら、ゴール前でやや単調になって得点できずに後半を迎える。後半開始から投入されたアドリアーノに前線で起点をつくられ、相手に傾きかけた流れを引き戻したのは、後半16分にピッチに送りこまれた村田和哉だった。終盤のわずかな時間で使われることが多かった彼に、この日はたっぷりと時間が与えられた。
試合前のアップでも、ハーフタイムでも、村田は必ず最後までピッチに残ってダッシュを数本繰り返してからベンチに戻っていた。守備組織の構築には定評ある小林伸二監督が鍛えた徳島の最終ラインを彼は自慢のスピードで再三かき回し、自らの右足で放ったショットはホーム通算200勝&600ゴールのメモリアルゴールとなった。


     
     


組み立てはスムーズだったものの、サイドからのクロスは数えるほど。ノヴァコビッチを充分にいかしているようには見えなかったし、良いタイミングで裏に抜け出た選手を見逃す残念な場面も多かったのは確かだ。しかし、本田と六坂が積極的にボールに絡みながら両サイドをフォローし、河井は彼本来の10番のポジションを絶えずキープしていたりと、変化の兆しはありありと見てとれた。いつもは右サイドのチャンスメーカー・村田が左からゴールを決めたことがその事実を端的に物語る。そして何より吉田豊イ・キジェの両SBが攻守に溌剌としていた。
身体にしみついたクセを変えるのは容易ではないから時間もかかるだろう。ましてやシーズン真っ最中となればなおさらである。しかし、つまるところ監督にできることといったら意識変革のための動機づけだけで、それ以外にはないという気もする。何ができて、何ができていないのか。何をどう変えていくのか。しばらく手探りで精査していくことになるだろうが、現役時代サッカーセンスの塊だった大榎克己ならきっとうまくまとめていくだろうと予感させる試合内容だった。選手たちが自信を取り戻し、ここから今季が始まるぐらいの心づもりでリーグの残りを戦ってくれることを期待している。

「愛されるエスパルス」をつくるのは監督だけの仕事ではない。