エスパルス2014:25節 / バトル・オブ・シミズ


【 9月13日 / Jリーグ第23節 : 清水 1-4 浦和 / ‘運動会日和’ 】


磐田がいないために今年は一回だけのエコパでの試合。試合前に行われた恒例イベント「ご当地キャラ大運動会」のゆるゆる加減に和む。クシコスポスト、天国と地獄、ウィリアム・テル序曲… 運動会の定番BGMを耳にすると、自分が出るわけでもないのに気が逸るのはなぜだろう。


          


元代表クラスを揃えた首位チームに、清水は先週末の天皇杯・東京戦で好感触があった急造3バックそのままで挑む。前半をゼロでしのげればと思っていたが、横に広げられて手薄になった中央を突かれて二失点。追いかける形になってしまうと苦しい。後半、CKから平岡のヘッドで一点返すのが精一杯だった。



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22日夜、録画しておいたプレミア第五節の二試合を見る。

マンU 3-5 レスター : ルーニーファンペルシーにデ・マリアとファルカオまで加わった超・超豪華なファンハール・ユナイテッド。左アウトサイドにかけたデ・マリア得意の美しいループが、レスターブルーに染まったスタジアムの時間を止めて、優しくネットをそよがせる。後半3-1とユナイテッドがリードして試合は決したかに見えたが、十年ぶりに昇格したレスターはあきらめなかった。プレミアの舞台を待ちわびたホームサポーターの熱い声援を受けてひたむきに走り、炎のごとき闘志でボールに食らいつく。インテルから新加入のカンビアッソが身体を張ってチームを鼓舞し続ける。ゴール前、ボールはそういう男の足下へ転がってくるものだ。カンビアッソは迷うことなく右隅に叩きこんだ。残り15分で4点を奪ったレスターがユナイテッドに逆転勝ち。
(レスターがユナイテッドに勝利したのは三十年ぶりとのこと。また、レスターのGKは90年代の世界No.1キーパーでユナイテッドのレジェンドの一人、あのペーター・シュマイケルの息子さんだった!)


チェルシー 1-1 マンC : 無失点で開幕四連勝中の首位チェルシーを昨季王者、ホームのシティが激しく攻め立てる。しかし後半シティに退場者が出るとチェルシーはすかさずカウンター、中→外→中とつないで鮮やかに先制。こうなると完全にモウリーニョのペース。残り十五分、シティ・ペデグリーニ監督が送りこんだのは、昨季まで13シーズンをチェルシーでプレーしMFながら200ゴールを記録したランパード。この日も無尽蔵のスタミナで数的不利を補っていたミルナーがダイレクトで中央に折り返すと、チェルシー守備網のかすかな綻びを破ってエリアに入ってきたのは、アグエロでもシルバでもない、やはりランパードだった! 誰かがシナリオを書いているのかと思いたくなる展開で、ドローながら痺れまくりのゲームだった。
試合後、ホームスタンドに挨拶をすませてひとり反対側のゴール前に行き、チェルシーサポーターを讃えるランパードの姿は涙なくして見られなかった。(ランパードはプレミアの39チームから得点、これは歴代最高記録)

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【 9月23日 / Jリーグ第25節 : 清水 0-3 G大阪 / ‘バトル・オブ・シミズ’ 】


ついにやって来たこの一戦。試合をするのは監督ではなくピッチ上の選手たち、そんなことはわかっている。優勝のチャンスがあるガンバと降格圏の瀬戸際でもがくエスパルス、対照的な両チームの現在の立ち位置の違いから見ても、幼なじみのエスパルスOB監督同士の対決なんてセンチメンタルなサイドストーリーに過ぎないだろう。
それでも、誰が何と言おうと自分にとっては“バトル・オブ・シミズ”なのである。

  
大榎の監督就任以後、この対戦までに何とか五割まで星を戻してほしいと願っていたのだが、現実には失点が減らず黒星が増えてしまっている。(今節終了で得失点差は−15)
この試合でもエリア前に人はいるのにアタックに行かなかったせいで(それも要警戒の宇佐美を悠々と泳がせて)易々と先制ゴールを許してしまい、またも自信を失った状態で追いかけるパターンにしてしまった。


          


ブエノも三浦玄太も良かった。水谷拓磨も良くやっている。一年め二年めの若手でも充分に個では戦えている。では、上位チームと何が違って低迷しているのか? 敬愛する藤島大さんの名物コラムから、今夏のW杯日本代表を評した文をお借りしたい(中日新聞7/15夕刊、「スポーツは呼んでいる」より)。

 “ 個々のせっかくの闘争心、ひたむきな意欲がチームのうねりにつながらない。アルジェリアコスタリカや米国が発散した一体感、人と人のあいだの空気の粘りのような熱は不足していた。 ”

もちろんワールドカップの代表と一クラブチームを単純には比較できまい。しかし、チーム全体の‘うねり’や‘熱’、一体の生き物のごとく躍動するグルーヴ感と熱量は、十一人分の技術と闘志を漫然と集めただけで生じ得るものではないという点では同じだろう。
あの2010年の健太エスパルスには確かにそれがあった。時は移って今、バトンを受けた大榎監督が苦しんでいるのは、まさにそのグルーヴを取り戻すためなのだ。(健太だって五年もかかった)


          


まだ若い選手に現在の苦境の責を負わせるつもりはまったくないが、あえて言おう。
石毛よ、水谷よ、なぜ上手くいかないのか、目いっぱい考えろ。君らがボールボーイをしていたときに見ていたエスパルスはこんなエスパルスだったのか。プロの水に慣れるのは、ある意味では敗戦に慣れていくということでもあろう。そうしてサラリーマンみたいなプロ選手になってしまう前に、深く深く思い悩んでほしい。これから強いられる現実的な戦いの中で、いや増す重圧に耐えながら自分の手でヒントを見つけろ。それは若き日の大榎克己長谷川健太が必ずや彷徨った道でもあるのだから。


プーマの黒シャツとアンブロの黒シャツ。スタンドで見つめる勝沢要さんや綾部美知枝さんの教え子対決は長谷川監督に軍配が上がった。大榎にとってはほろ苦い敗戦となったが、終了間際に投入予定だったキジェを廣井に変えたあたり、迷いを隠せなかった。
しかし、新しいストーリーも動き始めたのだ。人は替わり、形は変わり、世代も代わるかもしれない。様々な因縁をはらんで続いていくであろう大榎チルドレンと長谷川チルドレンの交錯をこれからも目撃できるのなら、エスパルスサポーターとして幸福である。そのためにも、絶対にこっちから舞台を降りるわけにはいかないのだ。