神なるオオカミ、羊羹合戦など〜2008年の読書から

年も明けてしまったが忘れないうちに2008年に読んだものの中から記憶に残った本を記しておこう。


【姜戎(ジャンロン)/神なるオオカミ(上514P・下502P)/講談社

     

文化大革命内モンゴルの草原に下放された知識青年が羊飼いとして暮らすうちに、遊牧民の最大の脅威であり信仰の対象でもある狼に魅かれ、一頭の小狼との生活を始める…自伝的ノンフィクション。

生活の糧である羊や馬を襲う憎むべき敵でありながら、なぜモンゴルの人たちは狼を敬うのか。草原(自然)を守るための遊牧の知恵と、それを理解せずに狼を全滅させてひたすらに開発に走ろうとする上官たち。長江は痩せて、その水を飲んだ羊が死ぬという現代の中国の姿につながるものが、確かにここにあると思う。
馬飼いに守られたモンゴル馬の集団に狼の群れが襲いかかる場面や、人間の集落に飼われていた小狼が遠吠えを始めて野生の狼たちが呼応し人間の集落に迫る場面など、圧倒的な迫力とスリルがある。狼の気高さ、賢さに次第に自分もぐいぐい引きこまれていき、唐突に訪れる小狼との別れには自然と泣いていた。

この本はよく読んだ。昨年春〜夏、オリンピックを控えて中国がクローズアップされていた時期でもあり(部分的だが)何度か読み直したりした。
狼を絶滅させた日本でも、鹿や猪が人里に下りて人家を荒らすというニュースもあり「狼を放て」という声もあるらしい。環境問題にも、自分の立脚点とすることができる一冊になった。


この作品に触発されて→『シートン動物記』(狼王ロボ含む・集英社文庫全3冊)、ジャック・ロンドン『野性の呼び声』(光文社文庫・名作再発)、『オオカミ族の少年』(日本評論社・千古の闇クロニクルシリーズ4冊)、上橋菜穂子獣の奏者』『孤笛のかなた』等を読みました。
シートン〜』は子供の頃に絵本や紙芝居で見て、なんとなく話はおぼえているものの原作をちゃんと読んだことがなかったので、飛びつきました。三ヶ月連続刊行は自分的にタイムリーでナイスな企画だったし、どれもすごく面白かった。NHKで放送されたBBC製作のドキュメンタリー「狼王ロボ」も素晴らしかった!

 ※ちなみに、私のプロフィール画像もオオカミです!

やはり昨年刊行された中国人作家・莫言『転生夢現』、いつも本屋に行くたび手に取り、買おうかどうか迷う。だって上・下でほぼ六千円…他の本なら何冊も買えるし。でもそろそろ店頭から消えてしまうだろうし、「知る人ぞ知る」作品だろうから、早く買わなきゃ★


火坂雅志/羊羹合戦(369P)/小学館文庫】

     

諸侯を集めた聚楽第で催される茶会で関白・豊臣秀吉に「いくさ」を仕掛けようとする越後・上杉景勝。いくさはいくさでも、茶菓子で…秀吉の鼻の穴をあけてやろうと新しい羊羹づくりを命じられた武士の悪戦苦闘。他七編の桃山〜江戸期の時代小説を収めた短編集。

これと、七編の短編集『利休椿』(363P/小学館文庫)をセットで読んだ。昨年秋頃、出かけるときにはいつもカバンに入れていて、ちょこちょこ何度も読んだ。
どの短編も剣のみに生きる武士ではなく、茶の湯、歌、刀剣の名品などの風雅の道に覚えのある一途な男が主人公であり、けして歴史の表面には現れず結局は逃れられない時代の流れの中でのささやかな抵抗が描かれたものが多い。
中でも『羊羹合戦』の「利休燈籠斬り」が気に入っている。

火坂雅志は今年のNHK大河ドラマ原作者ということで、年末に行った書店でも「天地人」が平積みされていた。「天地人」に関しては「歴史小説」と「時代小説」のとらえ方の違いで様々な批判もあるようだが、この二作は佳作ぞろいで文章も良かったし、時代小説とわりきれば面白く読めるのでは?ということで今年の読書候補です。


ほかに印象の残っているものは『福岡真一/生物と無生物のあいだ』『武田邦彦/偽善エコロジー』『和田竜/のぼうの城忍びの国』などなど。『梨木香歩/西の魔女が死んだ』も良かった。
逆につまらなかったのは『伊坂幸太郎/ゴールデンスランバー』『貴志祐介/新世界より』など。


2008年は何冊ぐらい読んだのだろう?読むのは遅い方だし、気に入ると何回も読んだりするので、トータルの冊数はやはり50冊以下かな。
こうして書き記す作業をしていると、読んで終わりでそれっきりにするよりも、より自分の感想が深く定着するようで良いな☆
他の方のように年末にベスト10とか出来るように、今年は読む→書くことを続けていきたい。今年も一冊でも良い作品にめぐり逢えますように!