斉藤健仁 / 世界のサッカー 愛称のひみつ

【斉藤健仁 / 図解 世界のサッカー 愛称のひみつ (290P) / 光文社新書・2010年(100612-0628)】


・内容紹介
 日本代表のユニフォームは、なぜ日の丸の赤でなくブルーなのか? なぜエンブレムに八咫烏(やたがらす)がついているのか? フランスのエンブレムがニワトリなのはどうして? イタリアやオランダが国旗にない色をユニフォームに採用し、その色が愛称にまでなっているのはなぜか? ワールドカップ本大会出場32代表+各国強豪クラブの愛称・エンブレムに関する面白エピソード満載。サッカーの代表チームでもクラブチームでも、自然発生的に生まれた「愛称」を知ることで、その歴史や成り立ちが深く理解できる。世界初、サッカーの愛称学。同時に各国の歴史も学べるサッカー読み物。


          


ワールドカップ開幕に合わせてグッドタイミングで刊行されたこの本。グループAから順に、国旗・エンブレムとユニフォームデザインの図柄付きで各代表の愛称の由来が解説されていて、TV観戦のお伴にとても役立っている。
開幕初戦は開催国・南アフリカvsメキシコ。南アフリカの愛称が「少年たち」を意味する‘バファナ・バファナ’であることは日本でもよく紹介されてはいたけれど、ではなぜラグビー・南ア代表の別称として有名な‘スプリングボクス’はサッカーでは使われないのかということまではあまり知られていない。同じラグビー強国のニュージーランドが‘オールホワイツ’なのはいわずもがなだが。
名前が紛らわしいスロヴェニアとスロヴァキア。日本にあまりなじみのない二つの小国を知るには分裂ユーゴとチェコの歴史を避けては通れない。
優勝候補スペインは「無敵艦隊」が代名詞のように使われるが、本国でそう呼ばれることはない。なぜならこの愛称は16世紀にアルマダの海戦で大勝し制海権を奪った英国が皮肉をこめてスペインを呼ぶときに使うからだそうだ。



現・日本代表の‘サムライブルー’はJFA自らがネーミングしたものだが、海外でも受け入れられているのだろうか?‘ブルーサムライ’でなく‘サムライブルー’。「青」より「憂鬱」に取られかねない言い回しに思えるのだが…
そもそも愛称というものは長い年月をかけて大衆間に自然と定着していくもので、いかにもキリンと電通が組んで安直なネーミング=手っ取り早い商品化がされているかと思うと、この‘サムライブルー’も空しく響く。「○○ジャパン」とか何とかプリンセスとか、次から次へとメディア優先の一過性のキャッチコピーが氾濫する日本らしいといえばらしいのだが。
民族の誇りやアイデンティティーへの強烈な自負を感じさせる各国代表の愛称やユニフォームの由来を知るにつけ、つくづく代表のジャージは戦闘服であるのだなと感じさせられる。
ひとまず‘サムライブルー’が今後も定着するのかどうかは今大会の成績によるのだろうが、大会後には消耗品としてすぐに忘れ去られてまた四年後には「新製品」が企画されるような気もする。スポンサーはその方が都合がよいのだろうから。



その‘サムライブルー’が明日の決勝トーナメント初戦で対戦するのはパラグアイ。白赤縦じまのユニフォームから‘ラ・アルビロハ’(スペイン語で「白赤軍団」)と呼ばれるが、インディオのグァラニー族にちなんだ‘ロス・グァラニエス’とも呼ばれるそうだ。
ベスト8一番乗りを決めたウルグアイは、やはり先住民族の名をとって‘ロス・チャルーア’と呼ばれるそうで、南米のこの二チームどちらかとスペインの対戦が実現したら、これはまた激闘になるんだろうなとワクワクしてしまう。



後半は各国リーグのトップチームの愛称も紹介されているのだが、やはり「紋章院」まである英国のクラブ・エンブレムは興味深いものばかりだ。
兜をかぶって闘った中世・騎士の時代、戦場で敵味方を識別するためのシンボルとして紋章は考案され(エンブレムが楯の形をしているのはそのため)、以後、王侯貴族の権威の象徴として広まった。実は正統な紋章には様々に決まりごとがあるようで、「紋章学」という分野もあるそうだ。
英国王室では代々ライオンをシンボルにした紋章を用いていて、もちろんイングランド代表の‘スリー・ライオンズ’もそれにちなんでいるのは世界中で知られている。では、なぜライオンが三匹なのか?……実はたいした理由はないのであった。

オオカミ族的に最も感激したのはイタリア/ASローマのエンブレム。雌オオカミが二人の人間の子に乳を与えているデザインなのだ。なんと、ローマをつくったロムスを育てたのはオオカミであったという伝説に基づいているのだそうで、ASローマの愛称は‘ラ・ルーパ’(オオカミ)、ローマ市の紋章にもオオカミが描かれているのだそうだ! ならばトッティは「オオカミの王子様」だったのか…知らなかった!


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四年前のドイツ2006はこれを見ながら観戦していた。


【斉藤健仁・野辺優子 / 図解 世界のサッカーエンブレム / 耷文庫・2005年】
【斉藤健仁・野辺優子 / 図解 世界のサッカーエンブレム W杯&南米エディション / 耷文庫・2006年】


          


内容の重複はあるものの、この二冊はクラブ中心で各国トップリーグはおろか二部リーグまで網羅している懲りよう。見て楽しく、読んで楽しいサッカー図鑑の労作である。
世界中にクラブの数だけエンブレムがある。現在ではどのクラブ・協会もHPを持っているので、アクセスしさえすれば誰でもデザインを見ることはできるだろう。だが、そのエンブレムに込められたチームへの思い(=文化)はそれぞれで、一つの紋章に秘められたローカルな歴史をひもといていくのは簡単なことではないはずだ。
異色のサッカー本のようで、実はサッカーを通じて各国各ホームタウンの歴史や文化まで透かし見できる好著であり、なにより本当にサッカーが好きでなければここまで出来っこない情熱の成果。三冊セットの保存版だ。

また四年後のブラジル大会を斉藤健仁氏の新たな仕事とともに楽しめることを今から期待するのは先走りしすぎか(笑)