真梨幸子 / 殺人鬼フジコの衝動


カズオ・イシグロの後にこういうのを読む自分も自分だが。



真梨幸子 / 殺人鬼フジコの衝動 (429P) / 徳間文庫・2011年 (120207-0209) 】



・内容
 一家惨殺事件のただひとりの生き残りとして、新たな人生を歩み始めた十歳の少女。だが、彼女の人生は、いつしか狂い始めた。人生は、薔薇色のお菓子のよう…。またひとり、彼女は人を殺す。何が少女を伝説の殺人鬼・フジコにしてしまったのか?あとがきに至るまで、精緻に組み立てられた謎のタペストリ。最後の一行を、読んだとき、あなたは著者が仕掛けたたくらみに、戦慄する!


          


タイトルは良い。「殺人鬼」なんて近頃耳にしないし、なんだかカルトチックでポップにさえ響く。
日の名残り』にどっぷり浸った後なので軽めのやつをと思って読んだのだが、400ページもあったかと思うほど、あっさり読了。もとより怖いのは苦手なのでじっくり読む気はさらさらなくて、さっさと頁を繰っていったのだが。
ネットでは酷評が目についた。どれほどのものかという興味もあったんだけど、個人的に思っていたほどひどいものではなかった。まあ、お世辞にも上等とは言い難いけれど。缶コーヒー5本分、こんなものだろう。


内容より気になってしまったのが、どういうつもりで著者はこんなチープなものを書いたのかということ。
ミステリとしてもホラーとしても、あるいは実録物としても中途半端感は否めないのだが、まず先に洒落たキャッチコピーめいたタイトルを思いついて、そのイメージを具体化するところまでいかなかった…ように思えたのだが。
親子の業の深さとか、幼少期のトラウマとか負の連鎖とか、表面上は深刻そうに見えるけど、実はかなり大雑把なつくり。始めからB級狙いだったのかとも思ってしまったのは、こっちが身を入れて読まなかったせいだろうか。


人を貶すのは簡単だ。他人を称えたり褒めることより、馬鹿にして認めない方が気楽である。
たぶん小説も同じで、真面目さや美しさを書こうとするより転落人生や失敗を偽悪的態度で書く方が簡単なのだろう。
THERE IS NO EASY WAY OUT。 大人なら誰もが身を以て知る人生の鉄則の一つのはずだ。嫌でも辛くても耐えねばならないときがある。心はつい甘い方へ、楽な方へと逃げようとするから、人間だってときどき自分のブレーキを点検しなければならない。自分にとって、本はそのためのツールでもある。
そういう制動、抑止力が内容はおろか作り手側に全然機能していない、そんな珍しい本だった。